慢性血栓塞栓性肺高血圧症(以下CTEPH)では器質化血栓による血管閉塞に加え、肺動脈内の細胞増殖によりリモデリングが起こる。治療の進歩にも関わらず依然治療抵抗例が存在し、治療抵抗例の主病態と考えられる肺動脈のリモデリングを標的とした新規治療の開発が国際的に望まれている 。本研究は、肺動脈リモデリングの細胞増殖を増殖細胞の起源の解明と細胞増殖へのテロメア短縮やテロメラーゼ活性上昇の関与の2点に着目して解明することにより、未だ確立されていないリモデリング抑制をターゲットとした治療法の開発へ臨床応用し、治療抵抗例の予後改善を目指すものであった。 COPDに伴う肺高血圧症では、末梢血のテロメア短縮と肺動脈リモデリングの重症度の相関や、老化細胞からの増殖因子様物質が報告されている。そこでCTEPH患者の末梢血のDNAのテロメア長を測定し、テロメア長と患者臨床情報とを比較検討した。末梢血のテロメア短縮とCTEPHの血行動態の重症度には有意な相関は認められず、肺高血圧症を伴わないCTED症例とCTEPHとの比較でもテロメア長に差は認めなかった。この結果からは、CTEPHにおいてはCOPD-PHで報告された肺動脈リ モデリングとテロメア短縮や、老化細胞からの増殖因子様物質とは関連ないことが推測された。一方、肺動脈内膜摘除術により摘出された肺動脈内膜と器質化血栓を含む検体から単離した血管内皮細胞の増殖能が高いことに反して、間葉系細胞は細胞増殖能が著明に低下しており、血管内皮細胞においてテロメラーゼの構成要素であるTERTの発現が確認された。これらの結果より血管内皮細胞が血管リモデリングの細胞増殖を引き起こしていることが示唆された。また、増殖細胞中にCD31陽性CD45陽性細胞が認められ、骨髄由来の細胞の関与も示唆された。
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