研究課題
加齢関連難治肺疾患である肺線維症において、線維化誘導性の細胞老化に陥った線維芽細胞が難治性の病態形成に寄与するとの仮説から、新規の細胞運命決定である長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)に注目し、同病態の線維芽細胞の細胞老化を制御するlncRNA群を同定することで疾患の新たな治療介入標的や疾患のバイオマーカーにすることを目指している。R1年度は以下の研究を進めた。老化線維芽細胞関連lncRNAの同定:昨年度に同定したIPF関連lncRNAの一つであるXは細胞老化やTGFβ刺激により発現調節を受けていることが分かった。このため、老化線維芽細胞にウイルスベクターを用いてRNA遺伝子の形質導入、またsiRNAを用いて発現抑制をすることにより線維芽細胞の細胞老化と炎症性サイトカインの発現を制御できるかを検討した。また、組織微小環境がlncRNAの制御にかかわるため、肺線維症の形成に関与する微小環境因子、とくに組織低酸素に着目し線維芽細胞の細胞老化への影響を検討した。組織低酸素は老化線維芽細胞の表現型をリプログラミングすることが認められたため、R1年度は、その分子機序を同定すべく、低酸素の下流シグナル分子の阻害薬とアゴニストを使用して検討した。HIFの薬物的誘導により通常酸素下でも老化細胞のリプログラミングを観察することができた。ブレオマイシン肺線維症モデルにおける老化細胞可視化はARF-DTRマウスに対してブレオマイシンによる肺線維症の誘導を行ったところ、線維化の形成と老化細胞リポーターシグナルの増強を認めたが、DTRを利用した老化細胞の除去では肺線維化の改善は見られなかった。同様の事象は、別のモデルマウスを利用した検討でも米国の共同研究者たちも認めており、仮説の変更が必要と考えた。また細胞老化により病態形成を媒介するミトコンドリアDNAの肺線維症へ寄与を解析した。
3: やや遅れている
上述の様に当初の仮説、老化細胞の除去により肺線維症の形成を抑止することを証明するためのマウスモデルにおいて、DTを用いたp19陽性細胞の除去の治療効果が見られなかった。このため、作業仮説の修正が必要となった。細胞老化が炎症を誘導する機序に注目して新たなマウスモデルで検討する方策である。バイオマーカーの検索のために収集中の臨床検体は、今後のコロナウイルスの蔓延による受診抑制などで遅れる見込みがある。
老化関連lncRNAの細胞老化制御と肺線維症治療効果の検討は、今後マウスモデルでinvivoで検討を進めていく予定である。細胞老化のリプログラムを促す細胞低酸素以下の分子機序の同定を進め、新たな創薬標的を探索する。新たな細胞老化のメディエーターであるミトコンドリアDNAの治療やバイオマーカーとしての可能性を検討する検討を本研究で予定したマウスモデルを利用して推進したい。
マウスモデルの結果が研究計画当初の期待と異なっており、治療の標的分子機序を変えたモデルの準備をしており、計画していた分析試薬などの使用を次年度に持ち越すことになった。
すべて 2019 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件)
Clinical Lung Cancer
巻: 20 ページ: 442~450.e4
10.1016/j.cllc.2019.07.006
Cancer Science
巻: 110 ページ: 1959-1973
10.1111/cas.14027
巻: 19 ページ: 30330-4
10.1016/j.cllc.2019.11.013