研究課題/領域番号 |
18K15949
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
田中 一大 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院助教 (40809810)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | LKB1 / SMOC1 / 細胞増殖 / 移動能 / 血管新生 / 予後予測 |
研究実績の概要 |
肺癌細胞株をLKB1の機能喪失変異がある細胞株と正常発現している細胞株に分類し、オミクスデータの統合解析を行った結果、LKB1が不活化した細胞株のみが特徴的に高発現する分泌タンパク質SPARC Related Modular Calcium Binding 1 (SMOC1)に着眼した。SMOC1は、正常組織では特に精巣で発現が高く、成長過程で骨や眼の形成を促進する因子である。 In vitroの解析では、複数のLKB1の機能喪失変異がある細胞株において、SMOC1をノックダウンすると癌細胞の増殖が抑制されることをWST assayで確認した。また、癌細胞の移動能を評価するスクラッチアッセィでは、SMOC1をノックダウンすると有意な移動能の低下が確認された。さらに、血管上皮細胞を用いたtube formation assayにおいて、SMOC1をノックダウンした癌細胞の培養上清中では、コントロールと比較して、有意に血管新生が抑制されるという結果も得た。 SMOC1の発現レベルの調整機構においては、LKB1のノックダウンに加えて、TNFα刺激・TGFβ刺激など、これまでに他分野でSMOC1の発現に関与すると報告のある因子との関連を検証したがが、SMOC1の発現増強は確認されなかった。 TCGAのデータベースを用いた解析では、SMOC1の高発現が予後と関連するという結果も確認した。以上からこれまでの解析で、SMOC1の高発現は、LKB1の機能喪失変異がある肺癌の進展に大きく寄与していることを示唆する結果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
In vitroの解析において、細胞株によってSMOC1の機能が異なる結果を得たため、その検証に時間を必要としたためである。進捗に大きな遅れはないが、細胞株を用いた研究結果を充実させ、より確信のある解析結果を得るために慎重に細胞株を選出する必要があると考えている。 また、SMOC1は分泌タンパク質であるため、細胞株を濃縮してその発現レベルをウェスタンブロット法などによって確認する必要がある。一部の細胞株でsiRNAが働かずノックダウンの効果を検証できなかったことも、今回の研究の遅れにつながったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後はSMOC1に標的を絞って、in vitroでの解析及びこれまでのデータの再検を行う。これまでの研究結果を基軸に、SMOC1と結合するタンパク質の同定及び、下流シグナル経路の解析を行い、より確信のある研究結果を構築していく。 SMOC1の発現機構の解明においては、低酸素刺激などの条件下で検証を進め、LKB1のノックダウンを同時に行うなど複合的な解析を行っていく。 また、in vitroの解析の進捗に応じて、マウスモデルを使用した実験の準備も進めていく予定である。同時に、肺癌の組織検体を用いた免疫染色の準備も進め、染色に使用する抗体の選出や倫理申請に関しても確認し、in vitroの結果に応じて速やかに解析が始められるように体制を整えていく。
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