研究課題
本研究では、2003年10月から2018年12月までの期間に広島大学病院で診断され治療を受けた初回治療前の血清サンプルを有する進行肺癌患者743例のうち、interstitial lung disease(ILD)を有した144例から根治的放射線照射やドライバー遺伝子陽性例などを除き、細胞障害性抗癌剤で治療を受けた83例のILD合併肺癌を対象とした。また、ILD合併肺癌患者と背景因子が合うように調整した83例のILD非合併患者と83例の健常者も解析に含めた。まず、健常群・ILD非合併肺癌群・ILD合併肺癌群の化学療法治療開始前に採取した血清検体を用い、HMGB1を測定し、3群間で比較した。次に、腫瘍量やILDの存在がHMGB1に与える影響を検証し、さらに血清HMGB1と治療開始1年以内の薬剤性肺障害の発症までの期間との関連について解析した。ILD合併肺癌患者83例中、25例が1年以内の細胞障害性抗癌剤に起因する薬剤性肺障害を発症していた。血清HMGB1値は、健常群よりILD非合併肺癌群で有意に高く、さらにILD合併肺癌群では健常群・ILD非合併肺癌群より有意に高かった。また、重回帰分析では血清HMGB1の上昇は、高腫瘍量やILDの存在と独立した関連を示した。コックス比例ハザードモデルにおいては、単変量解析では、高腫瘍量、血清sRAGE、血清HMGB1が有意な薬剤性肺障害の発症予測因子であり、多変量解析では、血清HMGB1のみが独立した薬剤性肺障害の発症予測因子であることが示された。この結果をうけ、マウスモデルでHMGB1上昇がなぜ肺障害を助長するのか、また予防的創薬ターゲットになり得るか検討を開始した。癌を皮下移植したマウスでは血中HMGB1濃度が有意に上昇することを確認した。現在担癌状態における肺への影響を検証すべく実験を継続中である。
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Respiratory Medicine
巻: 172 ページ: 106131~106131
10.1016/j.rmed.2020.106131