アスベスト曝露が悪性胸膜中皮腫(Malignant Pleural Mesothelioma: MPM)の「発生」に関与する事は広く知られているが、MPMの「進展」にも関わっているかは分かっていない。アスベストはマクロファージ(MΦ)によって貪食されるが、完全には分解除去されず、逆にMΦに細胞死を誘導し、再びMΦに貪食される。この間にアスベストはMΦに様々な影響を及ぼすと推測されるが、本研究では、腫瘍周囲の微小環境を構成するTumor-associated macrophage(TAM)内のアスベストセンサーであるインフラマソームに注目して機能解析した。 MPM細胞では正常中皮細胞に比べIL-1 receptor(IL-1R)の発現が亢進しており、recombinant IL-1βで刺激すると足場非依存性の増殖能が高まり、同時にMPMの幹細胞マーカーとされるCD26の発現が誘導された。その一方で、MPM細胞自身はあまりIL-1βを産生しておらず、IL-1βはparacrineにMPM細胞に作用していると考えられた。IL-1βの由来としてTAMを想定し、MΦに分化誘導した単球系細胞THP-1とMPM細胞H2452を共培養したところ、やはりCD26の発現が誘導され、この効果はインフラマソームの主要構成分子であるcaspase-1をノックダウンすると減弱した。これらの結果から、TAMにおけるインフラマソームの活性化はMPMの悪性度に深く関わっていると推測された。実際、化学療法を施行したMPM症例の臨床検体においてIL-1Rの発現を確認した所、IL-1Rを高発現している症例では、全生存期間が短い傾向が確認された。以上の結果、インフラマソーム及びIL-1β/IL-1Rシグナルは治療標的分子となり得ると考えられた。
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