研究課題/領域番号 |
18K15963
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研究機関 | 兵庫医科大学 |
研究代表者 |
金村 晋吾 兵庫医科大学, 医学部, 非常勤講師 (20815245)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | EGFR遺伝子変異陽性肺癌 / EGFRチロシンキナーゼ阻害薬 / Hippo pathway / ITGB3 / 癌幹細胞 |
研究実績の概要 |
上皮成長因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor: EGFR)変異陽性肺腺癌症例において、gefitinibやerlotinibといったチロシンキナーゼ阻害剤(Tyrosine Kinase Inhibitor: TKI)は非常に高い奏効率を示し、確実に予後の改善に寄与しているが、多くの症例で耐性化と再発を来す。EGFR-TKIに対する耐性機序の約20%は未解明のままで、未知の耐性機序の解明とそれに対する新たな治療戦略の確立は不可欠である。今回in vitroの実験において、EGFR遺伝子変異陽性肺癌細胞HCC827を用いた解析を行い、EGFR-TKI曝露に関わらず抵抗性で生存し得た細胞集団(Drug Tolerant Persisters: DTPs)では、ITGB3の発現が亢進していると同時に転写共役因子YAP/TAZが活性化している事を見出した。当初はYAP/TAZが上流で、ITGB3の発現を調整していると考えていたが、YAPまたはTAZをknockdown(KD)したHCC827細胞をEGFR-TKIに曝露した所、やはりITGB3の発現が誘導された事や、HCC827細胞にwild type(wt)のITGB3をレンチウイルスによるinfecionを用いて過剰発現させたると、YAP/TAZの核移行が促進される事が免疫蛍光染色法によって確認された事から、ITGB3が上流にあり、YAP/TAZの活性化を支配していると考えられた。現在、膜蛋白であるITGB3がYAP/TAZの活性化を制御する機序の解析を行っており、この経路を標的とする治療が、DTPsの除去につながり、最終的にEGFR-TKIの耐性克服に繋がるか検討を重ねている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
膜蛋白であるITGB3と転写共役因子であるYAP/TAZの間を介在する蛋白を同定し、EGFR-TKIの耐性克服のための治療標的となりうるかを検討するために、実際にITGB3がEGFR-TKI感受性に影響するかを検討した。まずHCC827細胞にwild type(wt)のITGB3を過剰発現させ、EGFR-TKIへの抵抗性が著明に高まる事を確認し、この効果はYAP/TAZをknock-down(KD)するとcancelされる事を確認した。次に、ITGB3のC末端から3つのアミノ酸を除去したmutant ITGB3をHCC827細胞に発現させたが、これではEGFR-TKI抵抗性は獲得できなかった。この結果から、ITGB3のC末端に結合しうる蛋白がYAP/TAZを活性化させていると思われた。既報から、いくつかのSrc family kinaseが候補として考えられたが、これらのうちYesのKDのみがITGB3を過剰発現させたHCC827細胞のEGFR-TKI抵抗性を抑制できた。 これらの結果から、YesがITGB3とYAP/TAZの間を介在する事でHCC827細胞はEGFR-TKIへの抵抗性を獲得し得ると考えられた。今後Yesの阻害剤を用いた検討を行う予定である。 以上から、現在までの進捗状況としては、おおむね順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
癌幹細胞化によるEGFR-TKI獲得耐性の克服のため、Yesの阻害剤を用いた実験を予定している。当初YAP/TAZを直接阻害できればと考えていたが、YAP/TAZの阻害剤であるverteporfinはYAP/TAZへの特異度が低く、実臨床での恒常的な使用は難しいと思われる。そのため、Yesの阻害剤での実験を考えているが、Yes阻害剤はSrcの阻害活性も持ち合わせている事が問題となっている。我々の実験では、YesをKDするとITGB3により惹起されるEGFR-TKI抵抗性を回復させるが、逆にSrc KDはEGFR-TKI抵抗性を亢進させる結果であった。現在利用可能なYes阻害剤はより低い濃度でSrcの活性化を抑えてしまうため、Yes阻害剤の効果が分かりにくくなる可能性がある。Yes阻害剤でのEGFR-TKI耐性克服が難しい場合は、抗ITGB3抗体を使い、抗体依存性細胞障害活性によるDTPsの除去を試みる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はin vitroでの実験が主であり、使用した抗体も、以前研究室で購入したものを使用し、また実験に使用した細胞についても研究室内に凍結保管されているものを使用する事ができた。そのため、新たに多くの物品を購入する必要がなく、plasmidや免疫蛍光染色に用いるplateなどの購入のみで研究の継続が可能であったため、差額が生じる結果となった。次年度は、Yes阻害剤や抗ITGB3抗体を用いた抗体依存性細胞障害活性の検討などを行う予定であり、その場合は、マウスを用いた実験も必要となるため、本年度の残額を繰り越しし、次年度に使用させて頂く予定である。
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