小細胞肺がん(SCLC)を典型とする肺神経内分泌腫瘍(肺NET)は特異的解糖系酵素Pkm1を発現しており、その生存・増殖を同酵素に依存している(Pkm1アディクション)。PKM1がNAD合成経路を活性化するという知見と合わせ、“Pkm1-> NAD合成”の代謝軸を肺NETの新規治療標的として開発することを目的として研究を行った。具体的には、NAD合成阻害に対する感受性や、NAD合成阻害がSCLCに細胞死をもたらすメカニズムを検討した。 前年度の検討から、NADサルベージ経路の阻害によって、細胞内NADレベルの著しい低下が起き、PARP活性の低下やヒストンアセチル化の減少が起きることを見出していた。さらに検討をすすめたところ、細胞内レドックスバランスの維持に重要なNADPHの量も、NAD合成阻害によって顕著に低下することが明らかになった。したがい、NADサルベージの抑制にあたっては、中心炭素代謝の抑制や酸化ストレスの上昇等が同時に誘発され、それらが複合的にはたらいて細胞死を起こしていることが示唆された。 一方、前年度の解析で、SCLCには、NADサルベージ以外の経路でNADを作る能力もあることが分かっていた。そこで、NAD合成の基質となる3つの栄養素について、それらに対する要求性をあらためて検討した。とりあげた3つの栄養素とは、ニコチンアミド、ニコチン酸、トリプトファンである。トリプトファンはSCLC増殖に必須であったが、このアミノ酸は必須アミノ酸の1つであり、NAD合成にどの程度寄与しているのかはあまり明確にできなかった。 一方、予想通り、ニコチン酸除去はSCLC増殖にさしたる影響を示さなかった。予想外にも、ニコチンアミドの除去も、SCLC増殖にさしたる影響を示さなかった。一連の結果から、NADの合成・消費の制御においては、未同定の、複雑な制御メカニズムが存在することが示唆された。
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