研究課題/領域番号 |
18K15974
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松本 あゆみ 大阪大学, 医学部附属病院, 医員 (40794053)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 超解像度顕微鏡 / 腎病理 |
研究実績の概要 |
我々は、超解像度顕微鏡を用いて、HE染色、PAS染色、PAM染色、EM染色などの腎生検組織診断で通常用いられる染色を施したサンプルを観察した。これにより、従来、電子顕微鏡や蛍光ラベルを用いて観察していた微細構造である腎ポドサイトの足突起や尿細管細胞内のミトコンドリアの形態変化を観察する方法を見出した。足突起構造については、ヒトおよび実験動物から得られたサンプルにおいて、正常構造の保たれる部分では3次元に足突起がかみ合う様子が観察された。さらに、慢性腎不全の予後に関連する臨床的指標である尿蛋白の程度に応じて、足突起の正常構造が破綻していた。また、ミトコンドリア観察においては、正常組織部分ではミトコンドリアが櫛状に配列しており、一方で組織障害が強いと考えられる部位では配向性が乱れ、断片化が認められた。また、これらの微細構造はEMT染色を用いた場合に最も鮮明に観察された。 今後の方針として、観察された足突起やミトコンドリアの形態変化の定量化を行い、腎予後との相関を検討する方針である。定量化の方法としては、超解像度顕微鏡で得られた画像に対してフーリエ変換を行い、得られたパワースペクトルから定量を行う。 腎病変の進展には腎構成細胞の細胞内オルガネラを含めた微細構造変化が密接な関連を持つことが既に報告されている。本研究により、腎生検組織診断に用いる通常染色を施したサンプルから、これまで得られていたより多くの情報を得ることができ、より良い病状理解および予後予測が可能となる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は、現在までにヒト腎生検のHE、PAS、PAM、EMT染色といった通常染色を施したサンプル、および実験動物の同様の染色を施したサンプルを超解像度顕微鏡(SIM)を用いて観察を行った。ヒトサンプルでの検討では、EMT染色を用いて観察することで腎ポドサイトの足突起の微細構造が観察できることを確認した。HE、PAS、PAMの各染色でも観察可能であったが、EMT染色サンプルが最も鮮明に足突起およびミトコンドリアを描出できた。足突起の微細構造が破綻すると、臨床的には尿蛋白が出現することが知られている。この足突起の微細構造が破綻し臨床的に多量の尿蛋白血症および低アルブミン血症を呈する病態である微小変化型ネフローゼ症候群症例のサンプルでは、足突起構造が破綻しており、正常構造が消失していることが観察できた。また、様々な程度の尿蛋白を認める疾患であるIgA腎症の患者では、尿蛋白の多寡に応じて、足突起の正常構造が破綻していることが観察された。 また、細胞内オルガネラの観察に関しては腎組織のEMT染色を超解像度顕微鏡で観察することで、ミトコンドリア様の櫛状の構造物が観察された。この構造物はCOX-4での免疫染色で観察した構造物と一致しており、ミトコンドリアであることが確認できた。SIMで観察可能であるミトコンドリアは、組織障害の程度の強い部位では櫛状構造をとっておらず、断片化および膨化を認めた。同じサンプルを電子顕微鏡で観察するとミトコンドリアのfissionやfusionを認め、超解像度顕微鏡で観察された変化はこれらの変化を反映しているものと考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
観察に用いる染色の種類や、励起波長の違いによって観察される微細構造が異なるため、染色と励起波長の組み合わせで観察される構造を、免疫染色を併用して確認する。 また、これまでに確認できた足突起やミトコンドリアの微細構造の程度を定量化する方法を確立する。足突起の定量については、まず尿蛋白の程度との相関を確認する。さらに、この解析から得られた数値と腎予後との相関を検討する。定量化の方法としては、フーリエ変換を用いる。超解像度顕微鏡で取得した腎組織の微細構造画像に対し二次元フーリエ変換を行い、パワースペクトルから足突起ないしミトコンドリアの正常構造の保存の程度を表す数値を算出する予定である。
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