研究実績の概要 |
本研究において、日常診療の際に用いられたHE, PAS, PAM, Elastica Masson Trichrome (EM)などの通常染色が施されたサンプルをそのまま超解像度顕微鏡で観察し、とくにEM染色されたサンプルでミトコンドリアや糸球体上皮細胞足突起といった微細な構造を観察できることを明らかにした。 病理診断において病変の定量的評価を行うことは重要である。我々は超解像度顕微鏡でによって得られた微細構造の画像をフーリエ変換を用いて解析することにより、微細構造の定量的評価を可能にした。糸球体上皮細胞足突起の描出された部分を128×128 pxlsの正方形画像に切り出し、フーリエ変換を行って得られたパワースペクトラムを用いて足突起の保存の程度を定量評価した。この定量結果は、臨床的に認められた尿蛋白量と有意な相関が得られた。また、同様にフーリエ変換を用いて、尿細管間質性腎炎による尿細管上皮細胞のミトコンドリア障害に伴う形態変化を定量評価した。その結果、尿細管間質性腎炎を有する症例では、尿細管間質性腎炎を有さない症例と比較して有意にその障害度が上昇していた。 ミトコンドリア障害による形態異常や糸球体上皮細胞足突起構造の破綻といった、腎構成細胞の微細構造変化が腎病変の進展と密接なかかわりを持つことは広く知られている。これらの微細構造の形態的変化は、これまで電子顕微鏡や、抗体を使用した免疫染色による超解像度顕微鏡を用いて観察されてきた。本研究により、腎生検組織診断に用いる通常染色を施したサンプルから、より多くの情報を抽出でき、より詳細な病態と予後予測が可能となり、個々の病態に即した治療選択ができる可能性がある。
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