研究課題/領域番号 |
18K15978
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
辻 憲二 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 助教 (10816995)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | Semaphorin3A / 糸球体上皮細胞 / アポトーシス |
研究実績の概要 |
本研究では蛋白尿を呈する糸球体疾患における糸球体上皮細胞に発現するSemaphorin3A(SEMA3A)の病態への関与及びSEMA3A阻害剤の糸球体障害保護効果を解明することを目的とした。 まずAdriamycin(ADR)投与による糸球体上皮細胞障害を野生型マウスに惹起させた。ADR投与により高度の蛋白尿、糸球体硬化及び腎機能障害を呈することを確認した。また、コントロール群と比較したところSEMA3A及びその受容体であるNeuropilin-1の発現が免疫染色法及びイムノブロット法の評価にて増加し、尿中SEMA3A排泄の増加も認められ、糸球体障害においてSEMA3A発現増加が病態に関与している可能性が示唆された。 次にSEMA3A阻害剤の糸球体疾患への効果をみるために、コントロール群、ADR群、ADR+SEMA3A-I群(SEMA3A阻害剤連日投与)に分けて2週間後に屠殺して評価を行ったところ、治療群では有意に尿中アルブミン排泄は低下し、さらに尿中SEMA3A排泄も低下した。さらにTUNEL染色及びqPCRの評価にてADRにより糸球体上皮細胞のアポトーシスが増加したが、治療群で有意に抑制されたことから、SEMA3A阻害剤による糸球体上皮細胞のアポトーシスの抑制を介して、保護効果が認められることが示唆された。治療群では腎尿細管上皮細胞のアポトーシスの抑制及び尿細管間質の線維化も有意に抑制されることが免疫染色法及びイムノブロット法にて認められた。 次にin vitroで上記の機序を確証するために、マウス不死化糸球体上皮細胞を用いてADRを用いてアポトーシスを誘導し、SEMA3A及びSEMA3A阻害剤の効果を評価したところ、ADR及びSEMA3A投与群では上皮細胞アポトーシスが誘導された一方でSEMA3A阻害剤によりADRによる上皮細胞アポトーシスは有意に抑制された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
糸球体上皮細胞障害モデルとしてAdriamycin(ADR)腎症モデルマウスを作成し、腎障害を認めること及びSemaphorin3A(SEMA3A)の発現増加することを解明し、さらにSEMA3A阻害剤を使用して腎障害が有意に改善することを解明し、さらにその機序がADRによる糸球体上皮細胞アポトーシスの抑制を介することを当初の予定通りに解明できたと考えられる。 さらにin vitroの系においても同様の機序によってSEMA3A阻害剤が上皮細胞保護的に働くことも確証することができ、研究の目的及び計画についてはおおむね順調に進展していると思われる。 一方でその他の糸球体疾患モデルとして、糖尿病モデルマウス及びLipopolysaccharide惹起性腎障害マウスにおいての評価は現在実行中である。
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今後の研究の推進方策 |
Adriamycin(ADR)腎症マウスモデルにおいてはSEMA3A阻害剤を使用して腎障害が有意に改善すること、さらにその機序がADRによる上皮細胞アポトーシスの抑制を介することを解明したが、次にSEMA3A-Neuropilin-1(NRP1)シグナルの詳細な検討による病態に関連するシグナル経路の検索が必要と考える。 具体的な方針としては、SEMA3A-Neuropilin-1シグナルは、JNKシグナルを誘導することが知られており実際にADR腎症マウスでもJNKシグナルの活性化が認められたことから、SEMA3A-NRP1-JNKシグナルを介して上皮細胞障害が進展することが示唆される。 上記を確証するためin vitroでマウス不死化糸球体上皮細胞を用いてADR、SEMA3A、SEMA3A阻害剤及びJNK阻害剤を用いて、糸球体上皮細胞のアポトーシスがJNK阻害剤で抑制されるか、特にSEMA3Aにより惹起されたアポトーシスがJNK阻害剤で抑制されるかについて検討を予定する。 また、その他の糸球体疾患モデルとして、糖尿病モデルマウス及びLipopolysaccharide惹起性腎障害マウスにおいての評価も同時に進め同様の機序によりSEMA3A阻害剤による保護効果が認められるかについても検討を予定する。
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