リンは生体に必須のミネラルである。低リン血症ではくる病・骨軟化症を発症する。一方、高リン血症では血管石灰化や心肥大、骨粗鬆症などの老化類似症状が惹起され、寿命の短縮をきたす。したがって、血中リン濃度は厳密に制御される必要がある。生体において、血中リン濃度は骨腎連関によって一定範囲内に維持されている。すなわち、骨は線維芽細胞増殖因子23(fibroblast growth factor 23: FGF23)を産生・分泌し、腎臓近位尿細管においてリン排泄を調節する。しかし、骨がいかに血中リン濃度の変化を感知し、FGF23の産生を調節しているのかは未解明の課題である。本研究では、未知のリン感知分子を同定することを目的とした。まず、骨芽細胞様細胞株であるUMR106を用いたリン酸化プロテオミクスにより、リン感知分子としてFGF受容体1(FGF receptor 1: FGFR1)を同定した。細胞外リン濃度の上昇はFGFR1のリン酸化を惹起し、活性を有する全長FGF23濃度を増加させる作用を有するGalnt3遺伝子産物を誘導することが明らかとなった。次いで、Cre-loxPシステムを用いて、骨芽細胞・骨細胞特異的FGFR1欠失マウスを作出して解析を行った。本マウスでは、高リン食負荷に対する血中全長FGHF23濃度の上昇および骨組織におけるGalnt3遺伝子の発現亢進がキャンセルされることが判明した。以上より、FGFR1がリン感知分子として作用していることを明らかにすることができた。一方、リンがFGFR1のリン酸化を惹起する詳細な機構については未解明であり、今後の課題である。
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