研究課題/領域番号 |
18K15986
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
岡部 匡裕 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (70595272)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ポドサイト |
研究実績の概要 |
本邦では3万人以上の慢性腎臓病患者が毎年透析導入に至る.慢性腎臓病の進行には,その原因によらず,増殖不能であるポドサイトの傷害・脱落が大きな部分を占めている.ポドサイトは腎臓の濾過装置である糸球体において,血液中の蛋白を保持するのに重要な役割を担っており,ポドサイトの障害・脱落が起きると,尿蛋白が出現,腎障害を引き起こす.さらに糸球体の大部分のポドサイトが脱落すると,糸球体が硬化し,そのため濾過機能が廃絶し,尿毒症物質が体内に蓄積することとなる.ポドサイトは生体内では増殖することができないため,ポドサイトを守ることが,糸球体保護,さらには慢性腎臓病の進行抑制につながることとなる. 研究代表者らは動物実験で,蛋白尿の出現より早い時期に傷害ポドサイトで転写因子であるMAFFとEGR-1が一過性に上昇することを見出し,またこれらがポドサイトの発生・分化維持に重要であるMAFBおよびWT1を各々拮抗することでポドサイト傷害を加速する可能性を示した.MAFFあるいはEGR-1陽性ポドサイトはいずれ不可逆的なポドサイト傷害へ陥ってしまう.一方で,MAFFあるいはEGR-1が陽性となっている早い段階で傷害ポドサイトを発見し治療できれば,ポドサイト保護,さらには腎臓病進展予防につながる可能性が高い.本研究では,ヒト糸球体疾患においてMAFFあるいはEGR-1を発現するポドサイトが存在するかを観察し,組織所見・臨床所見・尿中脱落ポドサイト量と対比させてその有用性を検討する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
所属大学の倫理委員会に本研究課題に関連する研究として,①腎生検検体および尿検体を使用する前向き研究,②腎生検検体のみを使用する後ろ向き研究の2つを申請し,承認を受けた.①の研究承認後に前向き研究へのエントリーを開始,現在までのところ,約60名がエントリーしており,組織サンプルおよび尿サンプルを得た.後ろ向き研究に関しては,現在症例を選別中である. 2018年度はヒト腎生検組織において,EGR-1およびMAFFの染色条件を最適化することを予定しており,EGR-1染色の染色条件の最適化は終了した.MAFFに関しては2種類の抗体を試みるも良好な染色は得られず,EGR-1染色を主とすることとした.また併せてポドシン染色の最適化も行った.尿中ポドサイトの評価としてはmRNA発現測定を選択し,尿検体からのRNA抽出,逆転写,ならびにqPCRによるネフリンおよびポドシンの測定系を確立した.既に得られた尿サンプルの一部を用いて,ネフリンおよびポドシンの測定を行った.
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今後の研究の推進方策 |
ヒト腎生検検体におけるEGR-1染色,ポドシン染色の最適化が終了,尿検体からのネフリンおよびポドシンmRNAの測定系も確立している. 前向き研究に関しては,引き続きエントリー症例を募っていく.すでにエントリーしている症例に関しては臨床情報を得るととに,保存されている腎生検組織検体に対してEGR-1染色・ポドシン染色を,尿検体に対してネフリンおよびポドシンmRNA測定を行っていく.後ろ向き研究に関しては,症例を選別し,臨床情報を得るとともに,腎生検組織検体に対してEGR-1染色・ポドシン染色を行っていく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題のための研究を開始するにあたり,所属大学での倫理委員会への申請が必要であった.そのため実際に研究開始が可能となったのが倫理委員会承認後の2018年秋となってしまい,予定していた支出が必要ではなく,次年度へ繰り越した. 次年度より組織染色,尿検体mRNA測定の量が増えるため,これらに必要となる試薬購入へ助成金を使用していく.
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