研究課題/領域番号 |
18K15990
|
研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
伊藤 佐久耶 久留米大学, 医学部, 助教 (90748485)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | L-カルニチン / 腹膜透析 / 慢性腎不全 / 残存腎機能 / 脂質代謝 / 尿細管障害 |
研究実績の概要 |
先行研究でPD患者はPD排液への喪失と残存腎機能低下によりカルニチン欠乏を来していることを明らかにしており、PD患者におけるカルニチン欠乏が腹膜AGEs沈着を介して腹膜機能障害に関与していると仮説を立て、カルニチン補充療法の腹膜保護効果とその詳細なメカニズムを解明することを目的とした。 前向き介入試験を行い、PD患者へのカルニチン補充療法が腹膜機能障害を抑制するかを明らかにした。久留米大学病院のPD患者28名を無作為にコントロール群(15例)とL-カルニチン投与群(13例)に割り付け、L-カルニチン投与群は、エルカルチンFF®錠(250mg)3T3×毎食後に経口投与とし、6ヶ月間投薬した。試験を最後まで終了したコントロール群(12例)とL-カルニチン投与群(12例)について、腹膜機能やAGEsなどの評価を行った。 前向き介入試験においては、コントロール群と比較し、L-カルニチン補充療法群では6か月後の腹膜機能に差はなかった。また、皮膚AGEsをはじめとした組織AGEs蓄積についても差を認めなかった。しかしながら、コントロール群と比較して、L-カルニチン補充療法群では、半年後の残存腎機能の低下率が有意に改善していた。そのメカニズムとして、血清過酸化脂質(LPO)の有意な低下と尿中L-FABP低下を伴っており、カルニチンによる脂質代謝の改善が、酸化ストレスを改善させ、残存腎機能を温存した可能性が示唆された。 残存腎機能は、PD患者におけるPD継続率、生命予後に影響する重要な因子であり、現在カルニチン補充療法における残存腎機能改善、尿細管障害改善に焦点を変更し、研究を継続中である。 現在は、糖尿病モデルラットやカルニチン欠乏マウス(JVS)マウスで慢性腎不全モデルを作製し、カルニチン補充療法の効果を検討している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先行研究でPD患者はPD排液への喪失と残存腎機能低下によりカルニチン欠乏を来していることを明らかにしていた。HD患者におけるカルニチン補充療法が、組織AGEs蓄積を有意に改善したことから、PD患者におけるカルニチン補充療法の腹膜保護効果を検討した。 前向き介入試験を行い、PD患者における腹膜機能改善効果を検討したが、6か月間の投与期間後の腹膜機能改善は認めなかった。しかしながら、6か月後にL-カルニチン補充療法群では、有意に残存腎機能が温存される結果が得られた。残存腎機能は、腹膜機能と 並びPD患者におけるPD継続率、生命予後に影響を与える最重要因子である。残存腎機能改善効果が得られ、そのメカニズムとして過酸化脂質低下とL-FABP低下を伴うことも判明した。 L-カルニチン補充療法によりミトコンドリア機能が改善することで、酸化ストレスが軽減し、尿細管機能を改善した可能性が示唆された。そのため、現在は尿細管機能改善効果に焦点を切り替え、糖尿病性腎症モデルラットやカルニチン欠乏マウスの慢性腎不全モデルを作製し、研究を継続している。
|
今後の研究の推進方策 |
臨床研究にて、L-カルニチン補充療法群において残存腎機能を改善する結果が得られた。その機序として、カルニチンを投与することで、近位尿細管におけるミトコンドリア機能を改善し、酸化ストレスを改善させることで尿細管機能保護に働く可能性が示唆された。 PD患者においては健常人と比較し、明らかにカルニチン動態が異なることは明らかになっている。しかしながら、保存期腎不全患者においても、カルニチン動態を検討したところ、健常者と比較しカルニチン動態が異なっており、相対的なカルニチン欠乏症であることが示唆された。L-カルニチンによる尿細管障害改善効果は、保存期腎不全においても認められる可能性があると考え、糖尿病性腎症モデルラットやカルニチン欠乏マウスで作製した慢性腎不全モデルにおいて、L-カルニチンの投与効果を検討する予定である。
|