本研究の目的であるAPE1発現プラスミドベクターを用いた遺伝子治療による有効性を評価するために、慢性腎臓病モデルである片側尿管結紮(UUO)を行った腎臓にプラスミドベクターを投与した。RNAシーケンスで網羅的に遺伝子発現を解析したところ、EGFP発現プラスミドベクターを投与した腎臓(UUO-EGFP)と比べ、APE1発現プラスミドベクターを投与した腎臓(UUO-APE1)では、854個の遺伝子の発現が有意に増強し、773個の遺伝子の発現が有意に低下した。主成分分析ならびにヒートマップで解析したところ、UUO-EGFPと比べ、UUO-APE1における遺伝子発現が偽手術腎に近似する方向に変化し、腎障害が軽減されていることが明らかとなった。さらに、RNAシーケンスで得られたデータに基づきGO解析を行った。GO解析において、UUO-EGFPでは免疫応答に関わるIl6、Tnfなどの炎症性サイトカインやCcl5などのケモカインの発現が増強し、またNos2やPtsg2などの酵素、Casp7などのカスパーゼに加え、Jak2やJak3などのチロシンキナーゼの発現が増強した。一方でUUO-APE1ではこれらの現象を有意に抑制した。我々は本研究において、腎障害モデルの1つである片側尿管結紮モデルを用いAPE1プラスミドを腎臓に過剰発現させることで、APE1が腎障害を軽減することを世界で初めて明らかにした。 APE1は酸化ストレスの軽減のみならず、免疫機能を調整することで腎保護的に作用することを明らかにした。これらの結果より、APE1の慢性腎臓病に対する新しい治療法としての可能性が強く示唆された。
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