研究課題/領域番号 |
18K15996
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
安田 英紀 新潟大学, 医歯学系, 助教 (00806490)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ネフローゼ症候群 / FKBP12 / 糸球体上皮細胞 / タクロリムス / カルシニューリン |
研究実績の概要 |
腎臓におけるFKBP12の発現と局在を明らかにするため、ラットの腎臓と単離糸球体、ヒトおよびマウスの培養ポドサイトを用いてRT-PCR法、Western blot法、免疫染色法による解析を行った。FKBP12は腎臓内では皮質、髄質に比べて単離糸球体で高い発現量を示した。FKBP12特異的な抗体を作製し、免疫染色によってFKBP12は腎臓では糸球体と一部の尿細管で発現する事を明らかにした。また、糸球体内の各細胞のマーカー分子とポドサイト関連分子群との二重染色によって、糸球体内でFKBP12はポドサイトに限局して発現し、ポドサイトの細胞質足突起に局在する事を明らかにした。更に、ヒトおよびマウスの培養ポドサイトにおいてFKBP12はアクチン細胞骨格に沿って発現する事を明らかにした。 また、発達段階の糸球体の免疫染色から、糸球体形成期からFKBP12はNephrinと共局在し、ポドサイトに限局して発現する事を示した。 次に、いくつかの実験的なネフローゼ症候群モデルの糸球体と傷害を誘導したヒト培養ポドサイトを用いて、同様にRT-PCR法、Western blot法、免疫染色法による解析を行った。糸球体におけるFKBP12発現はスリット膜特異的傷害モデルでは減少しないが、微小変化型ネフローゼ症候群 (MCNS) と巣状糸球体硬化症 (FSGS) モデルでは病態ピーク時に減少する事を明らかにした。更に、アドリアマイシン (ADR) 添加と無血清培養によって傷害されたヒト培養ポドサイトにおいてもアクチン細胞骨格に沿って発現するFKBP12が減少する事を明らかにした。 これらの結果から、FKBP12は糸球体内ではポドサイトのアクチン細胞骨格近傍に強く発現し、ネフローゼ症候群の傷害されたポドサイトにおける細胞骨格の再構成にFKBP12発現の変化が関与している可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、正常な腎臓におけるFKBP12の発現と局在、ネフローゼ症候群モデルの糸球体における発現の変化を解析した。 正常ラットの腎臓を含む様々な組織でFKBP12 mRNA発現は認められ、腎臓全体における発現量は大脳、胸腺、肝臓、心臓などに比べて低いが、腎臓内では単離糸球体における発現量は皮質、髄質に比べて高かった。作製したFKBP12特異的な抗体による免疫染色においてもFKBP12は大脳、肝臓、心筋で発現が確認され、腎臓では糸球体と一部の尿細管で発現していた。糸球体内においてFKBP12はメサンギウム細胞と内皮細胞には発現せず、ポドサイトに限局した発現を示し、ポドサイトの細胞質足突起に局在していた。更に、ヒトとマウスの培養ポドサイトにおいてFKBP12はアクチン細胞骨格に沿って発現していた。この事から、腎臓においてFKBP12はポドサイトのアクチン細胞骨格近傍に強く発現する事を明らかにした。 また、発達段階の糸球体においてFKBP12はNephrinと共局在し、糸球体形成期からFKBP12はポドサイトに限局して発現する事を示した。 次に、ネフローゼ症候群モデルにおける解析では、MCNSとFSGSモデルの糸球体で、病態ピーク時にFKBP12発現が減少していた。スリット膜特異的傷害モデルの糸球体では病態誘導初期にFKBP12発現は減少したが、病態ピーク時にその発現量は回復していた。更に、ADR添加および無血清培養によって傷害されたヒト培養ポドサイトでもアクチン細胞骨格近傍に発現するFKBP12が減少していた。この事からFKBP12は傷害されたポドサイトにおけるアクチン細胞骨格の再構成に関与する事を示した。 以上の所見から、FKBP12がネフローゼ病態の発症と進行に関与する重要な分子である可能性を示したため、本研究課題は当初の計画通りに順調に進展していると考えた。
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今後の研究の推進方策 |
免疫抑制剤のシクロスポリンAと結合してカルシニューリン阻害作用を示す細胞質イミュノフィリンであるシクロフィリンA (CyPA) の腎臓における発現と局在を解析し、ネフローゼ症候群モデルの糸球体におけるCyPAの発現の変化を検討する。具体的には正常とスリット膜特異的傷害モデルのANA腎症、MCNSモデルのPAN腎症、FSGSモデルのADR腎症の糸球体におけるCyPA発現の変化をリアルタイムPCR法、Western blot法、免疫染色法によって解析する。これらの結果をタクロリムスの結合蛋白質であるFKBP12の正常とネフローゼ症候群の糸球体における変化と比較する。 また、ヒト培養ポドサイトを用いてADRによる傷害に対してタクロリムスを添加した際のポドサイト保護効果を確認し、タクロリムスのポドサイト保護効果におけるFKBP12の役割を検討する。具体的にはADR添加のヒト培養ポドサイトに対してタクロリムスを添加した際のFKBP12発現の変化をRT-PCR法、Western blot法、免疫染色法によって検討する。また、ポドサイト傷害によって活性化するカルシニューリンシグナル関連分子群の発現の変化を同様に解析し、これらの変化とFKBP12発現の関連性を検討する。これらの変化をADR腎症のラットにタクロリムスを投与する事で再現し、糸球体におけるFKBP12およびカルシニューリン関連分子の発現を解析する。 更に、siRNAによってFKBP12をノックダウンしたヒト培養ポドサイトの形態、NephrinおよびF-actin発現の変化を検討する。また、カルシニューリンシグナル関連分子群の発現の変化をRT-PCR法、Western blot法、免疫染色法によって解析し、ポドサイトにおけるFKBP12の役割を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
解析に必要なFKBP12特異的な抗体の作製が当初の計画より順調に達成されため。 研究課題を進展させ、更なる解析に必要な薬剤、抗体、siRNAなどの試薬の購入に使用する。
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