研究課題/領域番号 |
18K15997
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
狩谷 哲芳 名古屋大学, アジアサテライトキャンパス学院(医), 特任助教 (60805290)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 腹膜透析 / 腹膜機能低下 |
研究実績の概要 |
腹膜機能低下は腹膜透析の継続を困難にし、腹膜透析患者の生命予後を悪化させる要因である。TGF-beta1-VEGF-A経路の増強とそれによる血管恒常性の破綻が腹膜機能を低下させるという仮説の元、研究を行った。本研究では、腹膜機能低下においてTGF-beta1がVEGF-A発現を増強する機構並びにVEGF-Aによる腹膜機能の低下機構を解明することを目的とした。様々な腹膜機能を持つ患者由来の腹膜透析液、腹膜組織を用いた解析。我々はこれまで様々な腹膜機能を持つ患者由来の腹膜透析液および腹膜組織について解析を行ってきた。本研究においても解析を継続した。ELISA法を用い、腹膜透析液中のTGF-beta1およびVEGF-Aの測定を行った。また、腹膜組織については主に線維化と血管新生を評価する方法として、腹膜壁肥厚(腹腔側の端から筋組織あるいは途中に脂肪組織が認められる場合は脂肪組織の腹腔側端までの距離)と血管内皮細胞の目印としてCD-31抗体を用いた組織染色を行い、その陽性血管数の計数を行った。また、得られた腹膜組織の内、表層部分からmRNAを抽出しRT-qPCR法によってVEGF-Aの遺伝子発現について評価を行った。以上より、腹膜機能が低下した群では有意に(1)腹膜透析液中のVEGF-A濃度、TGF-beta1濃度は上昇する、(2)腹膜組織中のCD-31陽性血管数は増加する、(3)腹膜組織中のVEGF-A mRNA発現は亢進している、事を明らかにした。申請者らのグループでは現在までの研究活動により、約1000の腹膜透析排液検体と約500のヒト腹膜組織検体を有しており更に臨床検体の集積を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
腹膜機能が低下した患者の腹膜において、TGF-beta1とVEGF-Aが共に増加すること、腹膜線維化においてTGF-beta1が直接的にVEGF-Aを誘導し血管数を増加させることは明らかにした。しかしながら、この研究成果を発展させ腹膜機能が低下した患者においてTGF-beta1がVEGF-A発現を増強する機構については研究が進んでいない。今後の研究の発展が望まれる。また、VEGF-Aによって腹膜機能低下が起こる機序の解明については2019年度に行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1.臨床検体の解析を行う。ELISA法を用いた腹膜透析排液中のTGF-beta1、VEGF-A等、血管新生に関与する成長因子の測定を行い、組織学的な所見を併せ検討を加える。 2.腹膜機能低下患者の腹膜中皮細胞においてTGF-beta1によるVEGF-A発現が増強される機構を解明する。 3.ラット腹膜線維症モデルを用い腹膜機能低下の原因と考えられる血管透過性亢進を評価する。VEGF-Aを阻害する因子を投与しVEGF-Aが動物モデルにおいても血管透過性亢進の原因となるか評価を行う。また、各種薬剤を投与し血管透過性を抑制する機構について評価を行う。生体顕微鏡による血行動態の観察の他に、エバンスブルーを静脈注射することによる血管透過性の評価方法も検討する。以上の研究によって、腹膜機能低下を起こす機構を解明し治療ターゲットを明らかにする。
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