研究課題
糸球体上皮細胞の障害は、蛋白尿の原因となる。その結果として、腎機能が低下することが知られており、糸球体上皮細胞の保護は慢性腎臓病の重要な治療戦略と考えられている。細胞浄化機構のオートファジーは大きく期待されている分子機構であり、制御機構を明らかにすることが新たな治療方法の解明につながることが期待される。申請者は糸球体上皮細胞のオートファジーを制御する新たな候補分子として、糸球体上皮細胞で強く発現している転写因子V-maf musculoaponeurotic fibrosarcoma oncogene homolog B(以下:MAFB)に着目し検討を進めた。薬剤誘導性MAFB過剰発現・MAFB抑制糸球体上皮細胞株を作製し、オートファジーの活性を検討したところ、オートファジーはMAFBによって正に制御されていることが判明した。また、MAFBを抑制した株ではパルミチン酸刺激による細胞死に対して脆弱性を示した。この結果により、MAFBはオートファジーを介して糸球体上皮細胞を保護していることが示唆された。引き続き共同研究者らとMAFBの下流や上流の分子機構について検討を進めた。ポリアミンの一種であるスペルミジンは、糸球体上皮細胞のオートファジーを惹起させることが知られていたが、スペルミジン刺激によりMAFBの発現が増強することが明らかとなった。さらにMAFBの過剰発現により、ポリアミンの一種であるスペルミジンやその合成に必要な合成酵素の発現が増加していることを明らかとした。また、オートファジーにより、細胞内でスペルミジンが産生されることも明らかとなった。これらの結果により、糸球体上皮細胞の中ではスペルミジン⇒オートファジー活性化⇒スペルミジン産生という正の回路が存在し、転写因子MAFBが回路の維持に重要な働きをしていることが明らかとなった。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件)
Kidney International
巻: 98 ページ: 1434-1448
10.1016/j.kint.2020.06.016