本研究は以下の2部で構成される。第一に、慢性腎臓病患者における石灰化ストレスのマーカーとして期待される血中T50値が実際に血管石灰化の進行を予測し得るかを臨床的に検証する。研究デザインは保存期慢性腎臓病患者および血液透析患者(計300例)を対象とした前向き観察研究であり、冠動脈石灰化スコアの1年間での上昇率とT50の関連を解析する。これにより、石灰化ストレスマーカーとしてのT50の臨床的妥当性を確立する。次に、石灰化ストレスを緩和させる手段としてマグネシウムの効果を検証する。90例の血液透析患者を対象としたランダム化比較試験において、6か月間の酸化マグネシウム製剤投与によるT50の改善効果を解析する。これらの研究を通じて、石灰化ストレスという概念を慢性腎臓病患者の診療に浸透させ、T50に基づくミネラル管理の個別化を図る。特に高リン血症治療が難しい症例に対して、マグネシウム投与という石灰化ストレスへの新しい治療戦略を提供する。 ① 前向きコホート研究『慢性腎臓病患者の血中石灰化ストレスと血管石灰化・動脈硬化の進行の関連』については目標症例数300例のところ、120例を試験登録 した。しかし、大阪府下でのCOVID-19の蔓延が遷延し2021年度に至っても緊急事態宣言が発令されようとしており、大阪大学医学部附属病院への入院患者数も制限されつつある。今後の症例のエントリーや研究継続の可否については、現時点においては、不透明と言わざるを得ない。 ② 非盲検ランダム化比較試験『血液透析患者の血清T50に対する酸化マグネシウムの効果』については、保存血清サンプルを用いて血清T50値を測定した。結果として、期待された通り、酸化マグネシウム群におけるT50値の改善が認められた。
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