本研究は以下の2部で構成される。第一に、血管石灰化ストレスのマーカーとして期待される血中T50値が慢性腎臓病患者の血管石灰化の病態に密接に関与する血清リン濃度と血清マグネシウム濃度の両者の相互作用を反映し得るかを検証することである。血清リン濃度高値かつ血清マグネシウム濃度低値のグループで石灰化ストレスが最も亢進することが予想されたが、実際にこのグループではT50が非常に低値であることが判明した。したがって、この集団では血液中でcalciprotein particlesの結晶化が促進されやすい状況であると考えられた。一方、同じく血清リン濃度は高値であるが血清マグネシウム濃度が高いグループではT50の低下は軽度であり、高リンの毒性がマグネシウムにより軽減されることが示唆された。T50を用いることでリンとマグネシウムのバランスを客観的に把握することが容易となり、両者の介入に際して臨床的に有用な指標となる可能性がある。 次に、石灰化ストレスを緩和させる手段としてマグネシウムの効果を検証した。90例の血液透析患者を対象としたランダム化比較試験において、6か月間の酸化マグネシウム製剤投与によるT50の改善効果を解析した。この結果、酸化マグネシウム投与がT50を有意に改善させることが判明した。 本研究結果から、T50に基づく石灰化ストレスの評価が慢性腎臓病患者のミネラル管理の個別化につながる可能性があり、リン毒性軽減のためのマグネシウム補充という新しい治療戦略を臨床に浸透させる契機になることが期待される。
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