研究実績の概要 |
トレフォイルファクター(TFF)は消化管粘膜上皮を含む各種上皮細胞から産生される蛋白であり、mucinとともに粘膜の恒常性維持、傷害修復過程に重要な役割を果たす。TFF1,2,3のうち、TFF3は腎尿細管に発現する。我々は、慢性腎臓病患者の尿中TFF3が有意に増加している事に注目し、「TFF3が腎尿細管上皮細胞に発現し、その保護因子として働き、その発現上昇が慢性腎臓病の予後予測因子となる」と仮説を立てた。 平成30年度は、当院腎生検患者の腎組織RNAを解析し、尿中TFF3濃度、尿細管間質傷害マーカーと組織傷害スコアとの相関をみた。日本人に多いIgA腎症患者において、TFF3 mRNA量は、尿中への分泌量と相関し、また尿細管間質傷害マーカーや間質線維化スコアと有意に相関していた。TFF3は尿細管上皮細胞とくにUromodulin発現部位と同部位に発現する事を免疫染色で確認した。この研究成果を論文発表した。次に、培養細胞実験において、TFF3の発現調節機構の解明を試みた。慢性腎臓病に関連があるとされる、線維化(TGF-β、AngⅡ)、虚血・低酸素、炎症(IL-6、iNOS)、高糖濃度(グルコース、フルクトース)等で培養尿細管上皮細胞を刺激したが、予想に反しTFF3の発現増加はみられなかった。 平成31年度は、慢性腎臓病患者の尿検体を使用し、尿中物質としてGdIgA1(ELISA)や各種サイトカイン(マルチプレックスアッセイシステム;Bio-Plex)を測定した。この相関を検討する事により、新たな研究テーマにつながる可能性を見出した。
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