本研究は慢性腎臓病の筋委縮のメカニズムを電解質・体液バランスや交感神経の観点から解明し、新しい筋委縮の予防・治療開発に繋げることを目的としている。 これまでに我々は、電解質・体液バランス異常に伴う筋委縮のメカニズムに腎交感神経活動が関与していることを明らかにしている。しかし、腎交感神経遮断によって電解質・体液バランスがどのように変化するのか、また筋委縮が防げるかどうかは不明であった。以上から、我々は、マウスに腎除神経を施し、腎交感神経が体液バランスや筋委縮にどのような影響を及ぼすかを検討した。 若齢マウスでは、腎除神経により経時的な尿量減少、肝臓における尿素産生亢進、全身の水分含量増加が生じ、腎除神経が体液保持作用を有することを確認した。また高齢マウスでは、若齢マウスと比較して全身の水分含量が減少しているが、この高齢マウスでみられる水分含量の減少が、腎除神経により抑制され、高齢マウスにおいても腎除神経が体液保持作用を有することを確認した。 高食塩摂取モデルにおいては、sham群で生じる全身性体液保持機構活性化に伴う体重減少を、腎除神経はその体液保持作用により抑制していることが判明した。 以上より、腎除神経は若齢あるいは高齢マウスにおいても体液保持作用を示し、高齢化によって生じる体液量減少や、高食塩摂取に伴う筋肉の異化・体重減少を抑制できることが示唆された。腎交感神経活動が、抗老化や筋委縮の新たな予防・治療標的となる可能性が考えられた。
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