研究実績の概要 |
わが国における腎硬化症は糖尿病性腎症、慢性腎炎に次ぐ末期腎不全の基礎疾患として知られている。腎硬化症は様々な腎疾患に合併することで、腎障害をより進展させることが知られているが、分子機序に立脚した臨床的診断法や治療法は確立されていない。申請者らは,血管内皮の炎症を惹起するサイトカインである胎盤増殖因子(PlGF)とその内因性アンタゴニストである可溶型Flt-1 (sFlt-1)の均衡が動脈硬化疾患の発症ならび進展に重要であるという研究を積み重ねてきた(Kidney int. 2014, J Am Soc Nephrol. 2015).本研究ではPlGF/sFlt-1系が全身の血管病変だけでなく,腎局所内の血管病変にも重要な役割を果たしていることを証明することを目的にする。 われわれは凍結保存していたCKD患者の血清を用いて,血中PlGF濃度と血中sFlt-1濃度をsandwich ELISA法で測定した.CKD患者の腎生検サンプルの組織所見との関連性を調査したところ、血中PlGF濃度は細動脈の硝子化病変の程度と正の相関関係を示したことから、血中PlGF濃度は腎硬化症の新たなバイオマーカーになる可能性が示唆された。一方で、血中PlGF濃度は間質の線維化病変とも有意な相関関係を認めていたことから、貧血との関連性を疑い、新たに臨床的に調査した。血中PlGF濃度は血漿Hb濃度と有意な逆相関を認めることが判明した。さらに、少ない症例数の予備実験では血中PlGF濃度の高値が将来的な貧血の進行リスクになるという事実が得られた。
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