研究課題
高血圧とそれに伴う心血管リスクにおいて、性差があることは以前から知られており、エストロゲンが臓器保護に働くことが推測されている。アルドステロン過剰を伴う高血圧は、本態性高血圧に比して高血圧性臓器障害が強く、近年そのリスク管理の重要性が注目されているが、アルドステロン過剰を伴う高血圧病態における性差については未解明な点が多い。アルドステロン過剰による心血管リスク上昇の知見は、海外におけるエビデンスが主であったが、昨年、本学が多施設共同研究の1施設として参加しているJPAS研究の成果として、日本人においても原発性アルドステロン症は本態性高血圧に比して心血管イベントが多いことを我々は明らかにした(Ohno et al. Hypertension, 2018)。また、同じくJPAS研究の1テーマとして、本学が中心に解析を行い、原発性アルドステロン症の術後高血圧予後の規定因子として、女性であることが大きく寄与することを明らかにし、現在論文投稿後のリバイズ中である。本研究では、当院単施設における原発性アルドステロン症の臨床データベースを用いて、アルブミン尿やBNP上昇などの高血圧性臓器障害マーカーに関する性差を検討した。尿中アルブミン量およびBNP値ともに、原発性アルドステロン症の病勢マーカーであるARRや尿中アルドステロンと有意な正の相関関係があり、男性及び閉経後女性においては、その相関関係が強く示される一方、閉経前女性ではこれらの相関関係が減弱する傾向があった。閉経前女性においては、尿中アルブミン量とエストロゲン値の間に有意な負の相関があり、エストロゲンが何らかの機序でアルドステロンによる臓器障害に保護的に作用することが示唆された。本内容をJ Clin Endocrinol Metab誌に投稿したが、リバイズの上rejectとなったため、現在内容を修正し、他誌への投稿準備中である。
3: やや遅れている
臨床的検討内容の論文化を最優先とし、その準備を進めてきた。論文投稿時に指摘された問題点として、欠損データが比較的多い点があり、この点に関しては、症例を追加し、欠損データを有する症例は解析対象から除くことで、再解析を行った。これにより、さらに尿中アルブミンとエストロゲンの関係については、強固な関係が示される結果となり、現在他誌への再投稿の準備を進めている。またもう一つの問題点として、尿中アルブミン量とエストロゲンの間には有意な負の相関関係が示されるものの、もう一つの高血圧性臓器障害マーカーとして、BNP値はエストロゲンと有意な負の相関関係を認めないことが挙げられていた。既報でも知られているように、BNP値は、肥満度との関係性が強く、また肥満度は原発性アルドステロン症の病勢との関連も知られているため、肥満度の寄与がBNP値とエストロゲンとの関係性を修飾している可能性が考えられた。動物モデルを用いたアルドステロン作用過剰下における表現型の性差の検討については、現時点では使用するモデル動物の選定中であり、当初の計画より進捗が遅れている。使用する動物モデルの一つの候補であったLSD1欠損マウスは、血圧上昇という表現型を呈するものの、40週というかなりの長期の高食塩負荷で得られる表現型であり、性差の検討には適さないと判断した。現在、短期で表現型が得られるモデルの確立を、複数のモデルで試みている。
上述のとおり、臨床研究の早期論文化を最優先に考えており、再解析データを用いた論文が完成し次第、投稿作業を行う。動物研究については、これまでの予備検討で、C57BL6マウスに10週齢でDOCAペレット(50mg/kg)を埋め込み、その後1%NaCl水を持続投与(自由飲水)することで、収縮期血圧が100mmHg→130mmHg前後に上昇することを雄マウスで確認しており、性差の検討に用いるモデルとして、本モデルを1つの候補として考えている。またAlzetポンプ(浸透圧ポンプ)を用いたアルドステロン持続皮下注のモデルにおいて、ミネラルコルチコイド受容体の標的遺伝子が想定どおりに動くことを、C57BL6マウスを用いた検討で確認しており、このモデルも性差の検討に用いるモデルの候補である。血圧などの表現型の観察も重要であるが、アルブミン尿等の高血圧性臓器障害は長期負荷を行わないと表現型として確認できないことも多いため、まずはアルドステロン作用の標的遺伝子の動きに焦点をあて、雄マウス、雌マウス、卵巣摘出後の雌マウスの3群比較で性差の検討することを予定している。
初年度は、臨床データの解析を優先し、早期論文化を目指しており、論文の投稿、リバイズに時間を多く費やすことになったため、基礎実験の進行に遅れが生じた。基礎実験の実施が少なかったため、初年度の使用額が予定より少なくなったが、2年目では予算に余裕ができたことを有効に活用し、マイクロアレイ等の基礎研究の迅速な遂行を助ける研究内容に積極的に予算を割くことを計画している。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
J Am Heart Assoc.
巻: 7(13) ページ: e008259
10.1161/JAHA.117.008259.
Mol Cell Endocrinol.
巻: 15 ページ: 89-99
10.1016/j.mce.2018.01.007.