研究課題/領域番号 |
18K16008
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
佐々木 有 順天堂大学, 医学部, 助教 (10790082)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 糸球体硬化 / ポドシン / エンドサイトーシス / SNX9 / NPC2 / Rac1 / カテプシンL |
研究実績の概要 |
本研究は糸球体足細胞(ポドサイト)の障害機序を明らかにすることを目的としており、本年度はSNX9の過剰発現モデルを作成し培養足細胞におけるSNX9の役割を解析し、またNPC2とポドシンの相互作用について検討する予定であった。 糸球体足細胞障害の最終段階である糸球体硬化において、細胞内蛋白の Rac1とmTOR が足細胞の構造を維持し、糸球体硬化を抑制することを論文化することができた。Rac1のポドサイト特異的ノックアウトマウスにおいてネフローゼ・糸球体硬化モデルであるアドリアマイシン腎症を引き起こすと、硬化糸球体が増加し糸球体上のポドサイトの数はコントロールマウスとRac1ノックアウトマウスで差はないにもかかわらず、その細胞の大きさはRac1ノックアウトマウスでは小さくなっていた。さらにRac1と細胞の大きさに関与するキナーゼタンパクのmTORとの関係を調べ、コントロールマウスにアドリアマイシンを投与するとポドサイトにおいてmTORの活性化が見られたが、 Rac1ノックアウトマウスでは抑えられており、ポドサイトが障害を受けるとRac1が存在することでmTORが活性化され、ポドサイトの大きさが保持される分子メカニズムが明らかになった。また、蛋白分解酵素であるカテプシンLは腎障害時にポドサイトで発現が亢進しスリット膜や細胞骨格関連蛋白を過剰に分解し蛋白尿をもたらすことが知られているが、ネフローゼ・糸球体硬化モデルであるピューロマイシン腎症ラットにおいて、カテプシンLの発現が亢進しているが、カテプシンLの阻害物質であるシスタチンCの発現とは一致しないことを論文化した。蛋白分解酵素とその阻害物質の分泌のバランス変化が糸球体基底膜からの糸球体足細胞の脱落だけでなく、糸球体の透過性亢進につながる糸球体基底膜分解を誘発する可能性があると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
30年度の研究により、Rac1がmTORとともにポドサイトの細胞の大きさを保持することで、構造を維持し糸球体硬化を抑制していることを解明し、足細胞障害の機序の一端を明らかにすることができた。 糸球体足細胞とその足突起間に存在するスリット膜と呼ばれる構造が蛋白尿と密接に関連する濾過障壁機構であるが、スリット膜の足細胞突起側には、ポドシンをはじめとする数多くの蛋白質が集積して複合体を形成し,足細胞内でCD2AP等のアダプタータンパク質を介してアクチン細胞骨格と連結している。我々の研究によりポドシンは足細胞障害時に細胞膜からエンドソーム内へ局在変化することが明らかとなったが、その後リソソームへと運ばれ分解されるか、あるいはリサイクリングエンドソームにより細胞膜へ戻るかについては解明できていない。今回ピューロマイシン腎症ラットにおいてリソソームに存在するカテプシンLの発現が亢進しているものの、カテプシンLの阻害物質であるシスタチンCの発現とは一致しないことを明らかにすることができ、足細胞障害時におけるポドシンのエンドサイトーシス経路解明にも有益と考えられた。 SNX9の過剰発現モデルは作成中であるが、30年度はRac1の解析による足細胞障害のメカニズム解明やカテプシンL、シスタチンCの検討による足細胞障害時のリソソームの観察に成功し、課題はおおむね順調に進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
30年度までに得られた結果を元に、SNX9の過剰発現モデルを作成し培養足細胞におけるSNX9の役割を解析し、足細胞特異的なSNX9 knock out マウスを作成し、足細胞におけるSNX9の役割を解明する。正常状態での様子をスリット膜関連蛋白質、足細胞骨格形成 の蛋白質、エンドサイトーシス関連蛋白質との発現を蛍光免疫染色とWestern Blot法において解析する。さらにアドリアマイシン投与により糸球体硬化を誘発し、上記蛋白質の動態を評価する予定である。 またNPC2に関しては、ポドシンの相互作用について検討する。ポドシンとのHEK T293 細胞での遺伝子導入後の共免疫沈降法による結合を確認できており、本研究ではポドシンとの足細胞内因性蛋白質での共免疫沈降法による結合の確認、さらにポドシンの蛋白精製を行い、直接相互作用があるかを確認する。 本研究でえられた結果は、学内の研究協力者と適宜討論を行い、研究成果を学会、欧米紙等に随時発表していくことを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
30年度はRac1およびカテプシンLの観察を元に、新たな視点からエンドサイトーシス・リソソーム系と糸球体硬化との関連性を示唆する結果を得ることができた反面、予定していたSNX9の過剰発現モデル作成やNPC2の解析が予定から遅れ次年度に向けて進行中であり、諸費用が繰り越しとなったため。
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