研究課題/領域番号 |
18K16018
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
石塚 洋典 筑波大学, 医学医療系, 講師 (50778628)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 接触過敏反応 / 細胞性免疫 / がん免疫編集 |
研究実績の概要 |
16H06663 ロリクリン欠損が末梢免疫に与える影響での結果に引き続き、表皮バリア不全と細胞性免疫低下を軸とした末梢免疫の制御機構を明らかにしている。昨年度までの研究成果ロリクリン欠損(LKO)マウスにおいて、接触過敏症(CHS)が抑制されていた。ランゲルハンス細胞(LC)欠損(Lg-DTA)マウスとLKOマウスを交配することによって、CHSが部分的に回復した。また、PD-1欠損マウスと交配することによって抑制されていたCHSが部分的に回復することも明らかとなった。一方、LKOマウスでは真皮内の形質細胞様樹状細胞の増加が見られた。 本年度の主な研究成果 【惹起相におけるCHS抑制】ランゲルハンス細胞(LC)はCHSの感作相において抑制性に働くことが知られている。接触過敏反応(CHS)の養子移入実験を行ったところLKOマウスにおける反応減弱は惹起相にも存在することが判明した。 【がん免疫編集への影響:二段階化学発癌実験より】CD8陽性T細胞による細胞傷害はCHSの惹起のみならず、化学発がんにおけるがん免疫編集過程に重要である。予想通り、LKOマウスはDMBA-TPA発癌で多くの乳頭腫を生じたが、引き続く浸潤癌の発生はむしろ抑制されていた。悪性進行における免疫編集の変容を示唆する所見は、腫瘍ネオ抗原に対する細胞傷害性免疫反応の低下と関連するものと推測される。 【脂質輸送系の代償性亢進】ロリクリンの主たる機能は角質細胞の成熟で、LKOマウスは角質細胞が脆弱である。一方で、透過性バリアは保たれており、細胞間脂質輸送の亢進による代償機序が想定された。電子顕微鏡下で観察すると、新生仔LKOマウスでは顆粒層(SG3)における層板顆粒の増加が見られた。これに伴って、脂質トランスポーター蛋白であるABCA12発現亢進が、mRNA、蛋白質レベルでともに見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
理由は以下の新知見による。一般的に表皮バリアの物理的障害は、透過性亢進を来し経皮感作を促進させると考えられる。しかし予想に反して、LKOマウスではアレルギー性接触皮膚炎のモデルであるCHSが減弱しており、角層細胞間脂質輸送能が亢進していた。CD8陽性T 細胞による細胞傷害性免疫反応は抗腫瘍免疫にも必須であるが、がん免疫編集の逃避相誘導とも大きく関わっている可能性がある。LKOマウスは紫外線等他の発癌要因に高感受性であるが、内因性の細胞性免疫低下が免疫編集に影響を与えることによって、相対的な悪性進行の遅延が見られたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
【表皮微小免疫環境とT細胞の恒常性について】表皮における酸化還元(レドックス)バランスが、経皮塗布されたハプテンに対して感作に至るか寛容に至るかの決定因子である。ロリクリンはシステインを豊富に含有する蛋白であるため、ロリクリン欠損そのものが表皮のレドックスバランスに大きく影響を与え、相対的な酸化ストレスをもたらすと考えられる。一方で、角化細胞の細胞骨格変化そのものに起因すると思われる脂質輸送能亢進やフィラグリン増加といった代償性変化が、LC以外の免疫細胞に影響を与えた結果、局所の免疫反応を制御している可能性がある。CHSの惹起にはCD8陽性のレジデントT細胞の機能が重要であり、免疫チェックポイントが適切な免疫反応を調整していることが明らかとなっている。典型的なT細胞を媒介する細胞性免疫反応であるCHSをモデルとして用いて、CD8T細胞の減弱したエフェクター機能が1.角化細胞との相互作用によるものか、2.サイトカイン環境の変容に伴う樹状細胞恒常性の変化によるものか、に着目してin vitro/vivoの実験を進める。
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