研究実績の概要 |
本研究は創傷治癒の分子機構を「上皮-間葉移行(EMT)」および「間葉-上皮移行(MET)」の観点から解明し、難治性皮膚潰瘍に対する新たな治療標的を創出することが目的である。
FGF2局所投与したC57BL/6Jマウス背部創傷の病理標本を用いて、形態変化を観察した。Day 4にて紡錘形に変化し遊走する表皮角化細胞が最も顕著に見られ、再上皮化するday 8以降は卵円形に戻っていた。EMT関連細胞骨格・接着分子としてkeratin, vimentin, E-cadherinは、day 4にて蛍光パターンの変化が最も観察された。組織PCR arrayにて、FGF2投与皮膚創傷(day 4)においてはEMT関連分子84項目のうち、34項目で上昇、11項目で減少していた。それらのうちTGFβ1、TGFβ3、Snail, Notch1は有意に上昇していた。HaCaT細胞を用いたin vitroの解析にて、培養条件をコントロール群、FGF2添加群、TGFβ1添加群、FGF2/TGFβ1添加群の4群にわけ検討した。結果、TGFβ1添加群、FGF2/TGFβ1添加群は、培養72時間に至るまで徐々に紡錘形に変形していった。24,48,72時間時点でrealtime RT-PCRを施行したところ、Snai2, N-cadherin, vimentinは、TGFβ1添加群、FGF2/TGFβ1添加群における発現の増加が見られた。さらに一部の分子ではFGF2/TGFβ1添加群でより発現が亢進していた。
本結果を統括すると、創傷治癒過程の創傷断端における表皮ケラチノサイトのEMTは局所FGF2投与によって増強された。その機序として、組織中のTGFβ1濃度上昇によるEMTとの相乗効果が示唆された。
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