研究課題
分子標的治療薬の一つである上皮成長因子受容体(EGFR)阻害薬は、上皮性悪性腫瘍の治療に頻用されているが、その一方で、ざ瘡様皮疹や爪囲炎などの皮膚症状を高率に生じることが知られている。しかし、EGFR阻害薬による薬疹発症の詳細なメカニズムについては未だ不明な点が多い。本研究では、これまでに判明しているin vitroにおけるEGFR阻害薬の自然免疫応答への抑制的な影響を踏まえ、EGFR阻害薬がヒトの皮膚の自然免疫応答に及ぼす影響を検討することで、分子標的治療薬による皮膚障害の病態解明を目指している。初年度は、EGFR阻害薬を実際に投与された患者の皮膚においても抗菌ペプチドβ-defensinの産生量が減少し、この減少に伴いざ瘡様皮疹が出現する傾向がみられることを見出した。この傾向は、抗EGFRモノクローナル抗体(EGFR mAb)投与患者においてより顕著に認められた。2年目は、EGFR mAb投与患者22名のうち薬剤投与後にざ瘡様皮疹を生じた14名において、β-defensin-1および-3の産生レベルが有意に減少し、β-defensin-2も減少傾向を示すことを見出した。β-defensin-1および-3は、主に黄色ブドウ球菌刺激によって培養ケラチノサイトから産生誘導され、EGFR mAb存在下ではこの産生が抑制されることをこれまでに明らかにしている。そこで最終年度では、黄色ブドウ球菌刺激によるβ-defensin産生メカニズムを解明するために、EGFR下流のシグナル伝達を阻害した培養ケラチノサイトを用いて、黄色ブドウ球菌に対する自然免疫応答の検討を行った。シグナル伝達阻害薬は、Raf活性を阻害するソラフェニブ、MEK活性を阻害するトラメチニブ、mTORを標的分子とするエベロリムス、テムシロリムス、マルチキナーゼ阻害薬のスニチニブをそれぞれ単独で用いた。しかし、いずれの薬剤もβ-defensin産生へ影響を及ぼさず、黄色ブドウ球菌刺激によるβ-defensin産生のメカニズムの解明には至らなかった。
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Clinical and Experimental Dermatology
巻: 45 ページ: 1055~1058
10.1111/ced.14311