紡錘体チェックポイント(SAC)は、分裂期の細胞において、姉妹染色分体の娘細胞への均等な分配を保証するための監視機構である。申請者らは、SAC異常と全身性老化症状を同時に呈する症例をはじめてヒトで見出した。患者は細胞周期制御遺伝子CDC20の片アレルに新規で生じた突然変異を有しており、これより「ヒトにおいてSAC異常が早期の組織恒常性低下(早老性)の原因となりうる」という概念を提案することを目的に検討を行っている。2018年度の実績を以下に述べる。 ・患者変異を有するCDC20タンパクを用いた免疫沈降実験により、当該変異がSACを制御する主たるタンパク質との結合性を変化させることを確認し、これより両者の結合性の変化が患者におけるSAC異常の原因であると考えられた。また、CDC20遺伝子の片アレルにフレームシフト変異を導入したHCT116細胞株ではSAC異常が見られなかったことから、患者におけるSAC異常はCDC20遺伝子のハプロ不全によるものではなくCDC20変異体そのものが引き起こしていることが示唆された。 ・患者末梢血白血球にて、細胞分裂時の微小核形成率が健常人と比較し上昇していることを確認し、患者体細胞で染色体分配異常に伴う染色体粉砕が発生している可能性が示唆された。 ・CDC20遺伝子はヒトとマウスで高い相同性を示す。これよりマウスCDC20遺伝子に患者と同等の変異を導入したノックインマウスの作出・解析を進めており、現段階で、CDC20遺伝子の片アレルのみで変異を有する個体にて、体細胞(脾臓細胞)における染色体本数のばらつきに有意な変化が認められないことを確認した。これより今後はCDC20の両アレルに当該変異を有するマウスにて、体細胞染色体本数と全身の加齢性表現型について解析を進めていく予定である。
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