研究課題/領域番号 |
18K16074
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
長谷川 敦史 東北大学, 医学系研究科, 助教 (80747460)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | GATA2 |
研究実績の概要 |
GATA2は造血幹細胞の産生と機能維持に必須の転写因子であるが、DCML欠損症に代表される免疫細胞産生異常症患者において遺伝子変異が多数見つかっており、これまで不明な点が多かった血球運命決定・分化誘導における役割が強く示唆されている。本研究では、免疫担当細胞の分化制御におけるGATA2の役割と、その破綻による疾患発症メカニズムの解明を目的とし、ゲノム編集により樹立したGata2R398W/+マウスにおける血液学的表現型解析と、GATA2R398W変異体の分子機能解析をおこなった。 Gata2R398W/+マウスは加齢に伴う末梢白血球、特にB細胞、NK細胞、樹状細胞、および単球の有意な減少を認め、ヒトDCML欠損症と非常に類似した特徴的な表現型を呈することが明らかとなった。特に顕著な産生異常が認められたB細胞系列に着目すると、マウス骨髄中B細胞系前駆細胞のポピュレーション低下と、造血幹細胞分画におけるB細胞系コロニー形成能低下を見出した。またGATA2R398W変異体における転写活性化能およびDNA結合能減弱を見出した。さらに興味深いことに、野生型GATA2とGATA2R398W変異体の共存条件下では、野生型GATA2の転写活性化能およびDNA結合能が強く阻害されること、その阻害作用は2つのGATA結合配列が連続で並ぶTandem-GATAモチーフ上において特異的に認められることがわかった。実際にGata2R398W/+マウス骨髄造血幹細胞において、Tandem-GATAモチーフを制御領域内に有する複数の標的遺伝子の発現変動が認められた。 以上の結果は、ヒトDCML欠損症患者と同様のヘテロ接合変異が疾患発症に強く寄与すること、またTandem-GATAモチーフに依存する標的遺伝子の特異的な制御破綻が、表現型につながる遺伝子発現異常を惹起している可能性を示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ゲノム編集により樹立したGata2R398W/+マウスにおいて、GATA2の機能不均衡に起因する血液学的表現型を解析した。本マウスは生後5ヶ月齢以降より末梢白血球、特にB細胞、NK細胞、樹状細胞、および単球の有意な減少を認め、ヒトDCML欠損症と類似した特徴的な表現型を呈することが明らかとなった。特に顕著な産生異常が認められたB細胞に着目し、Gata2R398W/+マウス骨髄を用いたフローサイトメトリー解析より、B細胞系前駆細胞における分化障害を見出した。さらにコロニーアッセイにより、造血幹細胞分画におけるB細胞系コロニー形成能低下を見出した。 変異に起因するGATA2タンパク質機能欠損を分子レベルで解析するために、GATA結合配列を制御領域としたルシフェラーゼ遺伝子を用いたレポーター解析を行った。GATA2R398W変異体は単に転写活性化能の低下を示すだけでなく、2つのGATA結合配列が連続したTandem-GATAモチーフを有する制御領域上では、野生型GATA2とGATA2変異体を共発現させた際に、野生型GATA2の転写活性化能をGATA2R398W変異体が競合的に阻害することを明らかにした。このとき、Tandem-GATAモチーフへの野生型GATA2の結合が共存するGATA2変異体により阻害されることを、表面プラズモン共鳴法によるDNA結合親和性解析より明らかにした。 さらに、Gata2R398W/+マウスの造血幹細胞分画を用いた定量RT-PCR解析より、ENCODEデータベース上のGATA2 ChIP-Seqデータより抽出されたTandem-GATAモチーフを有する複数の遺伝子の発現制御異常を見出した。
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今後の研究の推進方策 |
Gata2R398W/+マウスは、ヒトDCML欠損症と非常に類似した特徴的な表現型を呈することが明らかとなったが、GATA2の変異によりどのような標的遺伝子の発現制御が生じるかは未だ不明であり、詳細な解析を要する。現在までに一部の標的遺伝子を抽出して発現解析を行ってきたが、今後は解析対象をより拡大した網羅的解析を行う。まずB細胞分化に直接的に関与する遺伝子発現異常を見出すために、Gata2R398W/+マウス骨髄よりB細胞系前駆細胞を回収し、次世代シークエンサーを用いた網羅的RNA-Seq解析を行う。 またヒト血球系培養細胞株(K562)を用い、内在GATA2と同時にGATA2変異体を外来性に発現させた条件下で、網羅的遺伝子発現解析を行う。これにより、ヒト血球系細胞においても、野生型GATA2とGATA2変異体が共存することでGATA2標的遺伝子の発現変動が起こることを検証する。このとき、白血病由来であるK562細胞の増殖性や生存性の変化、またそれらを制御する遺伝子発現変動が認められれば、マウスでは解析できなかった、腫瘍形成におけるGATA2変異の影響を解析可能な実験系を樹立できると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度中の実験に使用する物品について、前年度から用意していたものと新規購入品とを合わせることで十分な量を確保することができた。また研究の進捗具合と試薬等の使用期限を考慮すると、大容量品やストックを購入することができなかったため、繰越が発生した。 次年度使用額分の使途として、フローサイトメトリー解析に用いる試薬、抗体類の購入費用とする。また、細胞培養実験と遺伝子発現解析のための試薬物品類の購入費用とする。
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