本研究では、免疫担当細胞の分化制御における転写因子GATA2の役割と、その破綻による疾患発症メカニズムの解明を目的とし、GATA2R398W変異体発現マウスにおける血液学的表現型解析と、同変異体の分子機能解析をおこなった。 GATA2R398W変異体発現マウスは加齢に伴う末梢白血球、特にB細胞、NK細胞、樹状細胞、および単球の有意な減少を認め、ヒトDCML欠損症と類似した特徴的な表現型を呈することがわかった。またマウス骨髄におけるB細胞分化異常を見出した。 さらに網羅的遺伝子発現解析より、B細胞や単球等の起源となるリンパ球・骨髄球共通前駆細胞において、GATA2変異により発現異常を生じる遺伝子を複数抽出した。加えてヒトおよびマウス由来培養細胞株を用いた網羅的発現解析の結果を統合・比較することで、細胞増殖や生存性維持に関わる機能の異常が共通して見出された。 転写制御異常のメカニズムに着目した培養細胞・精製タンパク質解析より、野生型GATA2とGATA2R398W変異体の共存条件下では、野生型GATA2の転写活性化能およびDNA結合能が阻害されること、その阻害作用は2つのGATA結合配列が連続で並ぶTandem-GATAモチーフ上において特異的であることがわかった。実際にGata2R398W/+マウス骨髄造血幹細胞分画において、Tandem-GATAモチーフを制御領域内に有する複数の標的遺伝子の発現変動を見出した。 以上の結果は、これまで未知であったリンパ球分化におけるGATA2の貢献を示唆するものである。またヒトDCML欠損症患者と同様のヘテロ接合変異が疾患発症に強く関わること、その背景として標的遺伝子の転写制御破綻(その一部にはシス配列構造の特異性が存在)が、表現型につながる遺伝子発現異常を惹起していることを示唆するものである。
|