前年度に引き続き、リンパ腫臨床検体で異常が認められるエピジェネティック関連遺伝子などを含む80遺伝子を対象としたsgRNAレンチウイルスライブラリーをCas9恒常的発現マウス造血幹前駆細胞分画に導入し、致死量の放射線量を照射した同系マウスに骨髄移植を行う実験を行った。その結果、骨髄移植後3カ月後頃よりsgRNAライブラリーを導入したマウスにさまざまな種類の造血器腫瘍が発症しはじめ、1年半の経過によって8割程度のマウスが何らかの造血器腫瘍を発症することを明らかにすることができた。さらに、この腫瘍細胞を用いて濃縮されたsgRNAの同定を行ったところ、Kmt2dやTet2といった既に遺伝子欠失によるマウス造血器腫瘍モデルが作製されている遺伝子に加え、欠失によって複数のマウスで造血器腫瘍を発症する新規のエピジェネティック関連遺伝子が見出された。さらにリンパ腫臨床検体で異常を高頻度に認めるものの、その異常単体ではマウス個体にリンパ系腫瘍を発症しない遺伝子改変マウスの造血幹前駆細胞を用いて同様の実験を行うと、全体の造血器腫瘍の発症率や潜時期間、濃縮されていたsgRNAの種類はほとんど変わらないにも関わらず、リンパ系腫瘍の発症頻度が高くなるという結果が得られた。実際にこの疾患表現型の変化は、複数のエピジェネティック関連遺伝子について見られており、当該年度の研究によってリンパ腫関連遺伝子異常とエピジェネティック関連遺伝子異常の相互作用によるリンパ腫発症機構を明らかにすることができた。
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