アンチトロンビン抵抗性(ATR)の性質を示すプロトロンビンR596L(マウスではR593L)の血友病Aへの治療応用についてマウスモデルを用いて検討を行った。方法として、血液凝固第VIII因子が欠損した血友病AモデルマウスにプロトロンビンR593Lをノックインしたトランスジェニックマウス(アンチトロンビン抵抗性であることを確認済み)を交配させ、血友病AマウスにプロトロンビンR593Lを導入したマウスを作製し、テイルカットによる出血時間評価を行ったが、出血時間の改善効果を認めなかった。その原因を追究するため、プロトロンビンR593Lの血液凝固学的特徴と血栓傾向の特徴について検討した。血漿を用いた解析ではプロトロンビンR593Lホモマウスの抗原量は野生型マウスと比較して、40%程度であった。そのため、個体レベルでのプロトロンビン活性も測定法により多少の変動はあるが、30-50%程度と低値であった。トロンビン生成試験でもピークの高さは野生型と比較して25%程度であり、個体としての血液凝固能は低いことが示唆された。出血時間においてもプロトロンビンR593Lホモマウスは野生型マウスと比較して長い傾向にあった。次に個体レベルでの血栓形成能を評価するため、下大静脈の結紮モデルにより、血栓形成能を評価した。この実験系では全身麻酔下に下大静脈を結紮し、24時間後、48時間後、72時間後に血栓形成量を重量測定により評価するが、プロトロンビンR593Lマウスは野生型マウスと比較して、血栓形成量のピークがヘテロマウス、ホモマウスの順に遅くなり、そのピーク血栓形成量は野生型よりも大きな数値を示したことから、プロトロンビンR593Lはマウスモデルにおいて、遅発性の血栓傾向を示すことが示唆された。そしてそのような血栓形成特性が血友病Aマウスにおける止血能改善には寄与しなかった一つの理由として考えられた。
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