グラム陰性菌の構成成分であるリポ多糖が造血幹細胞(HSC)の機能を変容させることが先行研究により分かった。細菌は腸内細菌のように体内に非常に多く存在するため、腸炎により腸内細菌が体内浸潤することで、造血応答に影響を及ぼすことが考えられる。本研究ではこの仮説に基づき、腸炎が造血に与える影響について検討を行った。DSS投与による腸炎モデルマウスを用いて造血応答を解析したところ、急性腸炎下では骨髄においてHSCおよび多能性前駆細胞(MPP)が増加した。さらに、腸間膜リンパ節(MLN)においてもMPPが増加していたことから、腸炎によるMPPの炎症局所への遊走が示唆された。Toll様受容体(TLR)シグナルを欠損したTRIF/Myd88欠損マウスを用いて解析したところ、腸炎下でも骨髄におけるHSC/MPPの増加やMLNにおけるMPPの増加を認めなかった。この結果から、骨髄におけるHSC/MPPの増加および末梢組織へのMPPの遊走がTLRシグナルによって制御されていることが示唆された。次にどの腸内細菌が一連の造血応答を制御しているのか解析した。抗菌薬投与により腸内細菌数を減少または腸内細菌叢を変化させたマウスに腸炎を惹起させ、それらのマウスの腸内細菌叢を調べた結果、グラム陰性桿菌のBacteroides(BA)が原因菌であると考えられた。そこで、BA溶解液を定常状態のマウスに投与したところ、腸炎なしで急性腸炎と同様の表現型を示し、DKOへの投与では認めなかった。つまりMPPの増加がBAによって自然免疫依存的に制御されることが分かった。さらに、成熟細胞について解析したところ、BA投与によりMLNにおいてGr-1細胞が有意に増加したが、腸炎マウスにGr-1中和抗体を投与しこれらの細胞を除去したところ腸炎が増悪した。この結果から、腸炎に伴うBAの浸潤が腸管組織修復に寄与することが示唆された。
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