研究実績の概要 |
我々はこれまでにAMPD1 (adenosine monophosphate deaminase 1)というAMPをIMPに変換し、NH3を産生する経路を触媒するプリン分解経路の酵素が正常形質細胞と骨髄腫細胞に特異的に発現することを見出し、AMPD1阻害が多発性骨髄腫に対する新たな治療法になりうるかを検討した。骨髄腫細胞株に既存のAMPD1阻害剤(CPD3, CPD4)をin vitroで添加したところ、解析した全ての骨髄腫細胞株で増殖抑制効果を認めた。また、CPD3が骨髄腫細胞に対してAMPD1阻害活性を有するかを検討したところ、CPD3添加に伴い骨髄腫細胞内のNH3の低下を認めたため、既存のAMPD1阻害剤が骨髄腫細胞においても酵素活性阻害作用を有することが示唆された。AMPD1阻害剤は骨髄腫細胞株にG0/G1期での細胞周期の停止を誘導することで増殖抑制効果を発揮した。AMPD1阻害剤による骨髄腫細胞内の主要な代謝産物である乳酸やNAD+の変化を検討したところ、AMPD1阻害剤は骨髄腫細胞の乳酸、NAD+/NADHを著明に低下させることが明らかになり、AMPD1阻害が細胞内代謝を変化させることで骨髄腫細胞死を誘導していることが示唆された。AMPD1阻害剤は患者由来の骨髄腫細胞に対しても細胞死を誘導し、同時に正常リンパ球への障害は認められず、骨髄腫細胞特異的に作用することが明らかになった。さらに、AMPD1阻害剤は低酸素条件下で有効性が向上するため、骨髄腫細胞が生存している低酸素状態にある患者骨髄においてより有効である可能性が示唆された。既報のAMPD1阻害剤の抗骨髄腫活性をさらに向上させるため、CPD3の構造をもとに類似体の合成を行ったところ、CPD3と同等の抗骨髄腫活性をもつ化合物を2種類、CPD3以上の抗骨髄腫活性を有する化合物を4種類同定した。
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