研究課題/領域番号 |
18K16093
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
野依 修 熊本大学, ヒトレトロウイルス学共同研究センター, 特定事業研究員 (30737151)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | IL-34の異所性発現 / バーキットリンパ腫由来細胞のオートクライン増殖 / non-GCBタイプ細胞株によるIL-34の供給 |
研究実績の概要 |
M-CSFレセプター (Fms) を介するシグナルは腫瘍関連マクロファージ (TAMs) への分化を誘導しがん微小環境の形成に寄与する事が知られている。FmsのリガンドであるIL-34が陽性の患者において有意な生存期間の短縮と、病巣部でのマクロファージ数の増加が見られた事から、IL-34はDLBCLの病態増悪に深く関与していると考えられる。 免疫化学染色の結果、リンパ組織においてIL-34の産生が見られたが、どの細胞が産生しているのかは不明であった。そこで、異なる病型に分類されるリンパ腫細胞株を用いて、IL-34, M-CSF, Fmsの発現を比較解析した。非ホジキンリンパ腫の中でも高悪性度として知られるバーキットリンパ腫に由来する細胞株 (DAUDI) およびDLBCLの中で比較的予後不良とされるnon-GCBタイプに由来する細胞株 (OCI-Ly3) でIL-34 mRNAを高発現していることが分かった。一方で、健常人のB細胞からはIL-34の遺伝子は検出されなかったことから、IL-34はリンパ腫において異所性に産生されると考えられる。また、いずれの細胞株もM-CSFを低発現であった。興味深いことに、DAUDIでは高度の、OCI-Ly3では低度のFms mRNA発現が観察され、外因的IL-34添加によりDAUDIのみで細胞増殖が誘導された。 以上の事ことから、バーキットリンパ腫のB細胞はIL-34を産生し、かつFmsを介してオートクラインによって自己増殖するが、DLBCLのB細胞はオートクラインによる増殖は行わずIL-34を供給すると考えられる。これら細胞によって産生されたIL-34が単球の遊走やマクロファージへの分化誘導に寄与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
IL-34を異所性に発現する患者において、生存期間の有意な短縮が見られた。本課題ではこれが、腫瘍関連マクロファージの増加によるものか、またはDLBCL細胞自身が産生したIL-34がオートクラインで機能し細胞増殖の誘導あるいは抗がん剤耐性能の獲得に寄与したことによるのかを明らかにする。昨年度行った解析の結果、バーキットリンパ腫由来細胞の細胞株はFmsとIL-34を共に発現し、外因的にIL-34を添加すると細胞増殖が誘導されたことから、オートクラインとして機能している可能性が示唆された。一方で、DLBCLの中でも比較的予後不良とされるnon-GCBタイプに由来する細胞株ではIL-34の発現は見られたが、Fmsの発現は確認されなかったことから、オートクラインは機能せず自身の細胞増殖には寄与していないと考えられた。以上から、課題の柱の一つをおおむね順調に進展させることが出来たと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
リンパ腫の患者でIL-34が異所性発現し、病巣部へのマクロファージ遊走が促進される可能性が示唆されたが、その分子メカニズムについては不明である。また、リンパ組織で増加していたマクロファージはCD163の発現が不明瞭であり、固形腫瘍で広く観察されるようなTAMsとはフェノタイプが異なる可能性がある。そこで今後は、IL-34あるいはM-CSFで分化誘導したマクロファージを、DLBCL細胞株との共培養あるいは培養液中で培養し、フェノタイプに与える影響を解析する。 IL-34は、Fmsに加えて、Syndecan-1、PTP-ζにも結合する事が知られる。特にSyndecan-1に関しては、予後不良のDLBCL患者のバイオマーカーとして機能するとの報告もある。今後は単球、マクロファージ、さらにDLBCL細胞株におけるこれら分子の発現を確認し、細胞増殖、分化に与える影響を解析する。 ヒトDLBCL細胞株をNOD/SCID免疫不全マウスに皮下移植し、マウス生存率、腫瘍内のマクロファージ数、その表現型をFACSなどで解析する。この時、ヒトIL-34はマウス細胞には作用しないため、マウスIL-34遺伝子をヒトDLBCL細胞株に導入後、実験に用いる必要がある。比較対照として、遺伝子導入しない細胞およびマウスM-CSF遺伝子を導入した細胞を用いる。
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