PIGT-PNHは20番染色体上のPIGT遺伝子の変異により発症する。PIGA以外の遺伝子変異に起因することが確認された初のPNHであり、自己炎症症状を随伴する特徴がある。PIGT-PNHは障害されるGPI (glycosylphosphatidylinositol) 生合成ステップの違いにより、PIGA変異によるPNH (PIGA-PNH) では見られない異常なGPI生合成中間体 (蛋白欠損GPI) が細胞膜表面に蓄積する。本研究は、PIGT-PNHに特異的な自己炎症症状が蛋白欠損GPIの蓄積によるインフラマソーム活性化に起因すると着想し、患者検体を用いてインフラマソーム活性化実験により詳細な機序の解明を目的とした。PIGT-PNH患者、PIGA-PNH患者、健常人の末梢血単核球を用いた実験により、PIGT-PNH患者ではインフラマソーム活性化の指標であるIL-1βが著明に上昇することをELISA法、Western blot法により確認した。また、血管内溶血を伴う未治療PIGA-PNH患者3名の血清IL-1β、IL-6、IL-18、アミロイドAを測定し、PIGT-PNH患者と比較したところ、いずれもPIGT-PNH患者で高値であることを確認した。さらに、PIGT-PNH患者の自己炎症症状が抗C5抗体により改善する臨床知見に基づき、ヒト単球細胞由来のTHP-1細胞株を用いて蛋白欠損GPIと補体活性化の関係について検証した。PIGT遺伝子、PIGA遺伝子それぞれをノックアウトしたTHP-1細胞株の補体系を酸性化ヒト血清により活性化したところ、PIGT遺伝子ノックアウトTHP-1でIL-1βの発現が著明に上昇しており、それにはMAC形成の促進が関係することも確認した。しかし、蛋白欠損GPIがどのような機序でMAC形成促進に関与するのか解明できておらず、引き続き検証が必要である。
|