フィラデルフィア染色体陰性の骨髄増殖性腫瘍(MPNs)は、造血幹細胞に遺伝子変異が生じ、血球の異常増加や骨髄の線維化を呈する造血器腫瘍である。治療関連死のリスクを伴う造血幹細胞移植以外には根本的な治療法が無く、高齢の発症者が多いことなどから移植適応症例は僅かであり、発症メカニズムの解明による有効な治療戦略の確立が求められている。我々はこれまでに、MPN患者の一部に共通して見出されるCalreticulin(CALR)変異遺伝子産物(変異型CALR)がトロンボポエチン受容体のMPLを恒常的に活性化し細胞の腫瘍化を引き起こすこと、変異型CALRは細胞内の分泌経路でMPLのN型糖鎖を認識して結合すること、変異型CALRによるMPL活性化は主に細胞表面で持続的に生じることを明らかにした。変異型CALRによる細胞表面のMPLの活性化は、変異型CALR発現細胞においてのみ生じることから、細胞表面のMPLには、変異型CALRと相互作用するための特異的な修飾が存在すると考えられた。そこで、正常細胞と変異型CALR発現細胞の細胞表面MPLの翻訳後修飾の違いを検討したところ、変異型CALR発現細胞では、正常細胞とは異なる糖鎖修飾を有するMPLが局在していることが明らかになった。つまり、変異型CALR発現細胞でMPLは、細胞内で変異型CALRと結合し、正常とは異なる糖鎖修飾を受け、細胞表面へと輸送されることが強く示唆された。また、正常細胞では、異常な修飾を有するMPLが細胞表面に存在しないため、細胞外から変異型CALRを添加してもMPLの活性化が生じないことが示唆された。今回の一連の研究により、「変異型の分子シャペロンがサイトカイン受容体の修飾に影響を与え、その結果生じた異常な受容体のアゴニストとして働くことで、下流シグナルを活性化し細胞を腫瘍化する」という腫瘍生物学の新概念を提唱できた。
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