研究課題
私が所属する研究室では、これまでに急性骨髄性白血病(AML)関連遺伝子Meis1の標的としてSytl1を同定し、Sytl1がHoxa9/Meis1関連白血病細胞の骨髄定着に必須であることを明らかにした(J Clin Invest. 126, 1664-78, 2016)。そこでAML細胞がSytl1活性化を介して細胞内小胞をエクソソームとして分泌し、骨髄微小環境を教育することでAML細胞の骨髄定着を促進するモデルを着想し、これによりAML細胞が骨髄定着する分子基盤を明らかにすることを目的とした。まずSytl1ノックアウト(KO)マウスの骨髄細胞をHoxa9で不死化したSytl1 KO細胞株と、これにSytl1遺伝子を再導入したSytl1過剰発現細胞株をそれぞれ樹立し、超遠心法を用いてエクソソーム分画を確認した。次にMeis1非関連AML細胞の骨髄定着にもSytl1が必須であることを示す目的で、NUP98-HOXA9とFlt3 ITDをSytl1KOマウス骨髄細胞に導入し、ここにSytl1遺伝子を再導入することでSytl1 KO、および過剰発現AML細胞株を樹立した。これらを間質細胞株OP9と共培養したところ、Sytl1 KO AML細胞株ではCobblestone area forming cell形成が阻害され、Sytl1がMeis1非関連AML細胞の骨髄定着にも作用することが示唆された。一方、これらの細胞をC57BL/6Jマウスに移植しても移植後48時間の骨髄中AML細胞の割合に差は認めず、2週間後にはいずれのマウスもAMLを発症した。以上からSytl1はMeis1非関連AML細胞の骨髄定着に一定の役割を担っているものの、必須の因子ではないと考えられた。現在はshRNAスクリーニングを用いて、Sytl1以外の骨髄定着に必須の因子を探るべく研究を進めている。
3: やや遅れている
Sytl1がMeis1非関連AML細胞の骨髄定着にも必須であることを証明した後、Sytl1が分泌制御するAMLエクソソームの解析に進む予定であったが、Meis1非関連AML細胞の骨髄定着におけるSytl1の役割は限定的であることがわかり、進捗状況としてはやや遅れているとした。一方で、Hoxa9/Meis1を発現するAML細胞株であるH9M1細胞を用いた、全遺伝子に対するshRNAスクリーニングは今年度内に終了し、Sytl1に代わるAML細胞の骨髄生着に重要な遺伝子候補として450遺伝子を同定している。現在、別のAML細胞株として樹立したMLL/ENL AML細胞を用いて、全遺伝子に対するshRNAスクリーニングを行なっている。これらの細胞株間で共通するAML細胞の骨髄生着に必須の遺伝子を抽出することにより、遺伝子候補の絞り込みを行なっていく予定であり、本研究課題の目的である「AML細胞が骨髄定着する分子基盤の解明」に向けては確実に前進しているものと考えている。
現在、Hoxa9/Meis1の上流にある白血病原因遺伝子であるMLL/ENL融合遺伝子を発現するAML細胞株を用いたshRNAスクリーニングを行なっており、これによりAML細胞の骨髄定着に必須の遺伝子候補の絞り込みを行なっている。shRNAスクリーニングにより同定した遺伝子に対しては、今後、CRSPR/Cas9システムを用いたSgRNAスクリーニングによるセカンドスクリーニングを行い、これによりSytl1に代わるAML細胞の骨髄定着に必須の遺伝子を同定する予定である。
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Leukemia
巻: 33 ページ: 122-131
10.1038/s41375-018-0181-2.