研究課題
入手した8つのヒト骨髄腫細胞株においてEZH1/2二重阻害剤は著明な増殖抑制効果を示した。これらの細胞株におけるGI50は、EZH2特異的阻害剤であるGSK126と比較して20倍以上低値であった。この結果から、EZH2だけでなくEZH1も腫瘍の増殖に重要であることが示唆された。また、骨髄腫に対する第一選択薬であるプロテアソーム阻害剤耐性の細胞株KMS-11/BTZに対しても、EZH1/2二重阻害剤は著明に高い増殖抑制効果を示した。以上より多発性骨髄腫治療におけるキードラッグであるプロテアソーム阻害剤使用後の再発患者においてもEZH1/2二重阻害剤は有望な治療選択肢になり得る可能性が示唆された。また、ヒト骨髄腫細胞株 (MM.1SおよびRPMI8226)を用いたRNAシークエンス解析を行い、WNT/β-cateninシグナルの遺伝子発現がEZH1/2二重阻害剤投与群において有意に亢進していることを突き止めた。さらに、クロマチン免疫沈降(ChIP)シークエンスを行った結果、WNT/β-cateninシグナルの多くの遺伝子がヒストンH3K27のトリメチル化を起こしており、阻害剤投与によりそれらが有意に脱メチル化される点は、2つの細胞株において共通のメカニズムであることが分かった。WNT/β-cateninシグナルが腫瘍増殖に与える影響を調べるために、脱リン酸化された活性型β-cateninを骨髄腫細胞株に過剰発現させたところ、活性型β-cateninの過剰発現により幹細胞活性の高いSide Population分画の腫瘍細胞数が有意に減少した。これらの結果から、WNT/β-cateninシグナルは骨髄腫細胞の幹細胞性維持に重要な因子の1つであり、シグナル上昇によって自己複製能が低下する結果、細胞増殖が抑制されることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
EZH1/2二重阻害剤は非常に高い増殖抑制効果を示しており、多発性骨髄腫に対する幹細胞を標的とした治療として良好な非臨床POCを取得できていると考えられるため。また、研究成果の一部を英文論文化し、発表することができた。
EZH1/2二重阻害剤に対し抵抗性を示す細胞株があれば、RNAシークエンスによる網羅的解析を行い、原因遺伝子の探索を進める。また、幹細胞活性の高いSP分画をフローサイトメトリーで解析し、EZH1/2二重阻害剤によってin vitroだけでなく、in vivoの皮下腫瘍でもSP分画の細胞割合を解析し、EZH1/2二重阻害剤が幹細胞を標的とした治療として妥当であるか否かを検討する。EZH1/2のダイレクトターゲットであるWNT/β-cateninシグナルが、PDXモデルにおいても発現変化を起こすか否かを検討する。さらに、EZH1/2二重阻害によるWNT/β-cateninシグナルの上昇がSP分画特異的に起きている現象か否かについても検討する。現在、PDXモデルの樹立に成功したのは1例のみである。その理由としては、国立がん研究センター中央病院から得られる生検サンプル数が少ない点、移植生着に数ヶ月単位で時間がかかるため、非常に悪性度の高い腫瘍ではないと生着できない点が挙げられる。臨床科と協力してさらなる症例数の増加を目指す。
物品費の端数であり、次年度に実験用物品費として使用予定である。
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Cancer Science
巻: 110 ページ: 194~208
10.1111/cas.13840
巻: 109 ページ: 2342~2348
10.1111/cas.13655