研究課題
ユビキチン・プロテアソーム系はタンパク質を選択的に分解することで、細胞の様々な機能を制御している。プロテアソームや機能がどのように制御されているか、また非選択的なタンパク分解系であるオートファジーとの使い分けには、不明な点が多い。プロテアソームは腫瘍で一般にその働きが亢進し、治療標的候補として古くから注目されているが、多くの腫瘍では治療標的としての意義は明らかではない。急性骨髄性白血病(AML)は代表的な難治性造血器腫瘍で、病態が徐々に解明されているが、治療成績は不良で、新たな治療標的の発見が期待されている。AMLでも多彩なタンパク質の発現制御に関わるプロテアソームは重要な役割を果たしている可能性が高いが、その病態における関与は不明な点が多い。我々はマウスモデルを用いてAMLにおけるプロテアソーム活性の制御を明らかにし、治療標的になりうるかどうかを検討した。特にMLL転座を有するAML細胞においては正常造血細胞と比較して、特に高い増殖活性を有する細胞分画でのプロテアソーム活性が高まっていた。AMLの治療に用いる化学療法剤に暴露することによって、AML細胞のプロテアソーム活性が抑制され、オートファジーが活性化されていた。遺伝学的にプロテアソーム活性を制御したAML細胞を作製し、あるいは薬理学的にAML細胞のプロテアソーム活性を高めたところ、プロテアソーム活性を抑制したAML細胞は化学療法剤に対して抵抗性を獲得し、逆にプロテアソーム活性を高めたAML細胞は感受性が高くなった。AML細胞ではプロテアソーム活性が亢進しているものの、抗がん剤などのストレスに暴露されるとプロテアソーム活性を抑制してオートファジーを活性化することでそれに対して抵抗性を獲得すること、この機序を阻害することがAMLの新たな治療標的になりうる可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
AMLにおけるプロテアソーム活性がどのように制御されているかを明らかにし、治療標的になりうるかどうかを改めて検討するために、プロテアソーム活性のレポーターコンストラクトを導入した複数のマウスAML細胞を用いて、プロテアソーム活性をモニターできるマウスAMLモデルを作製した。特にMLL転座を有するAML細胞においては正常造血細胞と比較してAML細胞、特に高い増殖活性を有する細胞分画でのプロテアソーム活性が高まっていた。AMLの標準的な治療薬であるシタラビンやダウノマイシンなどの化学療法剤に暴露することによって、AML細胞のプロテアソーム活性が一時的に抑制された。プロテアソームの構成因子であるPsme1やPsmb5、Psmb5機能欠失変異型の過剰発現、およびこれらの因子のサイレンシングによって遺伝学的にプロテアソーム活性を制御したAML細胞では、プロテアソーム活性を抑制したAML細胞は抗がん剤に対して抵抗性を獲得し、逆にプロテアソーム活性を高めたAML細胞は化学療法剤に対して感受性が高くなることがわかった。薬剤によりプロテアソームを活性化させたAML細胞も同様に、化学療法剤に対して高い感受性を示した。化学療法剤に暴露されたAML細胞ではこのようにプロテアソームの活性が抑制され、ストレス下での生存に有利になる一方で、非選択的なタンパク分解系であるオートファジーが活性化されていた。そこでオートファジー阻害剤によりオートファジーの活性化を阻害したところ、化学療法剤に対する感受性が増加した。これらの事実から、AML細胞は化学療法剤などのストレス下ではプロテアソーム活性が亢進しているものの、抗がん剤などのストレスに暴露されるとプロテアソーム活性を抑制することでそれに対して抵抗性を獲得すること、この機序を阻害することがAMLの新たな治療標的になりうる可能性が示唆された。
正常の造血幹前駆細胞と、正常細胞にAMLの原因となる融合遺伝子を導入して腫瘍化する過程の様々な細胞を用いて、プロテアソーム活性の差異・変化を検討する。β1、β2、β5の各サブユニットの活性の変化、および各構成因子の発現量、サブユニットの結合性の変化などを手掛かりに、プロテアソームの活性化機構を明らかにする。またストレスが加わった時のプロテアソームの活性がどのように制御されているかを明らかにする。AML細胞に対して化学療法剤などの遺伝学的ストレス、あるいは代謝ストレスが加わった場合に、β1、β2、β5の各サブユニットの活性、各因子の発現量、結合性がどのように変化するかについて検討し、AML細胞が化学療法に抵抗して生存するための代償機構としての、プロテアソーム活性の抑制メカニズムを明らかにする。また特異性が高い新規プロテアソーム阻害剤・活性化剤を用いて、AMLの増殖・薬剤感受性・幹細胞性などの性質に与える影響を解析する。またAML細胞をプロテアソーム阻害剤で処理することにより発現が増加する既知の分子のリストを参考に、それらの分子の発現を制御してAML細胞にプロテアソームの阻害と同様の効果が得られるかどうかを検証する。オートファジーの抑制は腫瘍の治療標的として有望視されているが、プロテアソームの活性を同時に制御することによって、さらに強い治療効果を得られる可能性がある。このコンセプトを、オートファジー阻害剤、およびプロテアソーム活性化剤を用いて、in vitroおよびin vivoで検証する。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件)
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