研究課題/領域番号 |
18K16117
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
本木 由香里 山口大学, 大学院医学系研究科, 助教 (80724054)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 抗リン脂質抗体症候群 / 抗リン脂質抗体 / 酸化ストレス / 血栓症 |
研究実績の概要 |
抗リン脂質抗体症候群(APS)の患者血中には複数種類の抗リン脂質抗体が存在し、患者の有する抗体と血中の高度な酸化ストレス状態によって、様々な臨床症状(動脈血栓症・静脈血栓症・習慣流産等)が引き起こされると考えられる。 本研究では、抗リン脂質抗体と酸化ストレスによる向血栓性作用の解明に取り組んでおり、2020年度はヒト大動脈内皮細胞(HAEC)と健常人末梢血単核球(PBMC)との共培養モデルにて、APS患者由来IgG(APS-IgG)による抗リン脂質抗体添加実験ならびに、過酸化水素またはパラコートによる酸化ストレス負荷実験を実施し、抗リン脂質抗体と酸化ストレスの作用を検討した。 まず、HAEC単培養モデルならびにHAEC・PBMC共培養モデルに、APS-IgG、全身性エリテマトーデス患者由来IgG(SLE-IgG)、健常人由来IgG(normal-IgG)を添加し、生細胞中の活性酸素種(ROS)レベルを測定した。コントロールに比べ、APS-IgGやSLE-IgGを添加した場合にROSレベルが有意に増加し、特にAPS-IgGにおいて顕著であった。また、同様のモデルに過酸化水素またはパラコートを種々の濃度で添加し、これらの物質が細胞内ROSレベルを濃度依存性に上昇させることを確認した。 次に、HAECをコラーゲンゲル上に培養し、培養上清中にPBMCを添加したHAEC・PBMC共培養モデルを作成し、抗リン脂質抗体や酸化ストレスがPBMCのHAECへの接着およびHAEC下への浸潤に及ぼす影響を検討した。APS-IgGの添加により、normal-IgGやSLE-IgGの添加時に比べ、単球・T細胞・B細胞・NK細胞のHAECへの接着および浸潤が有意に促進された。また、パラコートによる酸化ストレス負荷により、単球およびT細胞のHAECへの接着・浸潤が促進され、HAECにおけるICAM-1の発現量が増加した。 抗リン脂質抗体は細胞内の活性酸素種の発生を促し、抗リン脂質抗体と酸化ストレスは、それぞれが単球やリンパ球の血管内皮細胞への接着・浸潤を促進することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度はヒト大動脈内皮細胞と健常人末梢血単核球との共培養モデルにて、抗リン脂質抗体が細胞内の酸化ストレスを増加させることや、抗リン脂質抗体と酸化ストレスが単球やリンパ球の血管内皮細胞への接着および血管内皮細胞下への浸潤を促進することを明らかにした。当初の計画では2020年度は研究課題の最終年度であり、抗リン脂質抗体と酸化ストレスの相乗効果について検討を進める予定であったが、2019年度の1年間は産後休暇ならびに育児休業に伴い研究を中断していたため、研究期間を一年延長し、本研究課題は一年遅れで進行している。2020年度に得られた上記の成果は、単核球の血管壁への浸潤に焦点をあてた検討であり、研究を進める中で予想していたよりも良い結果が得られたため、他の検討より優先的に実施したものである。本検討については当初の研究計画以上に進展しており、他の検討項目についても今後実施する抗リン脂質抗体と酸化ストレスの相乗効果に関する検討のための基礎的な検討が十分に遂行できている。
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今後の研究の推進方策 |
抗リン脂質抗体症候群患者の血中が高度の酸化ストレス状態にあることを鑑み、血管内皮細胞と末梢血単核球を用いた単培養モデルおよび共培養モデルに対し、抗リン脂質抗体と酸化ストレスの同時負荷実験を実施する。これまでの検討において抗リン脂質抗体または酸化ストレスの一方を負荷した場合に影響がみられた因子(細胞表面組織因子、接着分子、細胞間結合分子、各種サイトカイン、ケモカイン、一酸化窒素、活性酸素種)について、両者が共存する同時負荷時に、その影響が増幅あるいは抑制されるか否かを検討し、相乗的な作用について解析を進めていく。また、コラーゲンゲルを用いた血管内皮細胞と末梢血単核球の共培養モデルにて、抗リン脂質抗体と酸化ストレスを同時に負荷し、単球やリンパ球の血管内皮細胞への接着および血管内皮細胞下への浸潤がどのように変化するか検討する。 2018年度から2021年度までに得られた結果を総括し、抗リン脂質抗体と酸化ストレスの向血栓性作用について、血管内皮細胞と単核球の相互作用ならびに抗リン脂質抗体と酸化ストレスの相乗効果の観点から考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年3月から2020年3月の間、産前・産後休暇および育児休業のため、研究を中断しており、これに伴い、補助事業期間を1年間延長した。2020年度は2019年度の交付金を使用し、2020年度交付分が次年度使用となった。また、学術集会参加のための旅費を予定していた金額について、コロナ禍による参集型学術集会の開催中止により旅費が不要となったため、こちらも次年度使用となった。これらの次年度使用分については、本研究課題の最終年度の研究全般に適切に使用する。
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