研究課題
FLT3-ITD (Fms-like tyrosine kinase 3 with internal tandem duplication) を持つ急性骨髄性白血病 (FLT3-ITD AML)は極めて予後不良な一群である。FLT3-ITD阻害剤はすでに実臨床で使用されているが、その効果は限定的であり十分とは言えない。そのため、FLT3-ITDに対する直接的な阻害剤に加え、FLT3-ITD signalingの下流やその制御機構をターゲットとした、新規薬剤の開発を行う必要があると考えた。しかし、FLT3-ITDのリン酸化シグナル自体の制御機構を含めた病態解明はほとんどなされていない。申請者はこれまでの研究から、FLT3-ITD AMLにおいてDUSP4(dual specificity phosphatase 4)の発現が増殖維持に必須である可能性を見出した。正常造血においては、FLT3の下流リン酸化シグナルの恒常的活性化は起こっていないが、FLT3-ITD存在下では下流シグナル経路であるERK1/2やSTAT5が恒常的にリン酸化されている。この恒常的リン酸化は、DUSP4によって調整されており、FLT3-ITD AML細胞に特異的な新たな治療ターゲットとなる可能性がある。本年は、この仮説を検証するため、FLT3-ITDを含む様々変異を持つAML細胞株にshDUSP4をLenti virusを用いて導入し細胞増殖の変化について検討した。FLT3-ITD変異をもつAML細胞株MV4-11細胞はshDUSP4導入により増殖は抑制されること、一方FLT3-ITD変異を持たないAML細胞株では増殖に影響を与えないことを示した。また、shDUSP4が導入された細胞ではFLT3-ITDの下流に存在するSTAT5,ERK1/2のリン酸化は促進されていることを確認した。
2: おおむね順調に進展している
AML細胞株を用いた検討では、DUSP4によりFLT3-ITDの下流シグナルであるSTAT5,ERK1/2のリン酸化シグナルの時間的量的変化について、フローサイトメトリーを用いたリン酸化定量を行い詳細に検討を行っている。これにより、DUSP4の発現抑制がFLT3-ITDの下流リン酸化調節を失わせ、分化を誘導または、アポトーシスを誘導しFLT3-ITDシグナル特異的抗腫瘍効果を発揮することを示し、FLT3-ITD AMLに対する新たな治療ターゲットとなる可能性を明らかにする。次にFLT3-ITD AMLモデルマウスを用いてDUSP4がFLT3-ITD AML発症に必要なのか明らかにすることを目標に、NHD13マウス にFLT3-ITDを強制発現させることでAMLを発症させるFLT3-ITD AMLモデルマウスを使用することを検討していた。しかし、このモデルマウスを使用した系は手順が煩雑で安定した結果を得ることが困難であった。一方32DにFLT3-ITDを強制発現させることでFLT3-ITDモデルマウスとする方がより勘弁で有効であることが明らかになった。そのため、32D細胞を用いた系に変更し現在準備を進めている。32D細胞にLenti virusを用いFLT3-ITD,shDUSP4またはその両方を発現させ、放射線照射したレシピエントマウスに移植する。このモデルを使用しDUSP4のFLT3-ITD AMLの発症における役割やDUSP4の抑制が治療ターゲットとなり得るのか検討している。
すでにDUSP4阻害剤の開発に関して報告があり(Bull.Korean Chem. Soc.;2014:2655-59 Hwangseo et al)、DUSP4阻害剤の有効性について、FLT3-ITD AML細胞株(MV4-11,Molm13), FLT3正常細胞株 (HL-60,K562,U937)などを用いて検討する。その結果を踏まえ、正常骨髄CD34陽性細胞に対する影響やFLT3-ITD AML及び正常FLT3 AML患者検体を用い有効性を検討する。有効性が確かめられた場合、FLT3-ITD AML モデルマウスをもちいて in vivoでの安全性、有効性の確認を行う。この阻害剤の有効性が不十分であった場合、本学創薬研究センターを利用し独自にDUSP4阻害剤を作成することも考慮する。また、リン酸化シグナルの調整因子としてDUSP familyであるDUSP1,DUSP6などがDUSP4の機能を補完している可能性もある。そこで、shDUSP4でノックダウンした際のDUSP1,DUSP6の発現や同時にノックダウンした場合の効果など詳細に検討する必要があると考える。その結果他のDUSP familyの影響を考慮する必要があった場合同時にそれらをノックダウンすることで抗腫瘍効果が得られるのか検討する。DUSP1/6の阻害剤はすでに開発されており、それらを同時に作用させることでの効果についても検討する。また、本研究の成果はFLT3-ITDのみならすRas、bcr-abl、Jak2などその他のリン酸化シグナルが重要な働きを示す血液悪性腫瘍におけるDUSP familyの役割や治療ターゲットとなり得る可能性につながる。そのため、これらの異常を有する細胞株を用いてshDUSP4やDUSP4阻害剤を持ちいた検討も行う。
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