研究課題/領域番号 |
18K16141
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
長谷川 久紀 東京医科歯科大学, 医学部附属病院, 助教 (00707028)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ヒトiPS細胞由来筋細胞 / 筋細胞傷害 / 筋細胞-CD8T細胞-マクロファージ混合培養 / 多発性筋炎 |
研究実績の概要 |
多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM)では、病態に非特異的な既存の免疫抑制治療に対し副作用や治療抵抗性を示す症例が多く、病態に基づく、より安全で効果的な治療の開発が重要である。我々は、PMモデル動物から自己免疫性筋炎の発症に、細胞傷害性CD8T細胞(CTL)だけでなく、筋局所の自然免疫活性化も必須であることを示しているが、PM/DM患者の筋病変に浸潤しているマクロファージ(Mψ)や筋細胞自体の病態への寄与も含め、筋炎を誘導する自然免疫活性化機序は明らかではない。本研究では、ヒトiPS細胞(hiPS細胞)由来筋細胞を抗原特異的に傷害するCD8T細胞の系に対してMψを混合培養し、Mψや筋細胞自体がCD8T細胞の筋細胞傷害能に与える影響を検証し、PM/DMの病態解明を目指す。 PM/DMでは、CTLを活性化させる病態特異的な抗原は同定されていない。そこで、WT1ペプチドとWT1特異的再生CTLに着目した(Cancer Res 2016;76:6839)。日本人の約60%はWT1を提示するHLA-A*24:02が陽性のため、HLA-A*24:02陽性hiPS細胞を筋細胞へと分化させ、WT1存在下で再生CTLと共培養すれば筋細胞傷害を誘導するin vitroの系の確立が可能と考えた。 現在まで、樹立済みのPM患者由来hiPS細胞でHLA-A*24:02陽性であった1例のhiPS細胞株に対し、筋原生転写因子MyoDを導入して筋細胞へと分化可能なMyoD強発現MyoD-hiPS細胞バルクの樹立に成功した。また、京都大学河本先生よりWT-1特異的再生CTLを御供与いただき、HLA-A*24:02陽性抗原提示細胞(LCL)により、再生CTLが当研究室でも、再現性を持って増殖・活性化することを確認できたので、hiPS細胞由来筋細胞に対するWT-1特異的再生CTLの細胞傷害能を検証中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
hiPS細胞由来筋細胞に対する抗原特異的CTLによる筋細胞傷害系の確立をまずは目指した。 樹立済みのPM患者由来hiPS細胞の内、3例(本年度1例追加)の患者のHLAハプロタイプ解析を行い、1例がHLA-A*24:02陽性であることを確認した。 hiPS細胞から筋細胞への分化は、既報(Tanaka et al. Plos One 2013)を改良し、pluripro基質と培地で培養中のhiPS細胞クローンに、Fugene HDを用いてドキシサイクリン(Dox) 誘導性MyoD発現カセットを導入し、まず無数のMyoD-hiPS細胞サブクローンからなるバルク細胞を樹立した。Dox誘導でバルク細胞のMyoDを強発現させて、その分画をflow cytometerで分離後、Dox非存在下のLaminin 511培地で未分化状態のまま増殖させたMyoD強発現MyoD-hiPS細胞バルクを、DoxによりMyoDを再発現させることで、安定して筋細胞へと分化させる条件を確立した。この方法で、HLA-A*24:02陽性PM患者由来のMyoD強発現MyoD-hiPS細胞バルクも筋細胞へと分化することや、既存の分化条件よりも小スケールで筋細胞へと分化する至適hiPS細胞数を確認している。 河本先生よりいただいたWT1特異的再生CTLとLCLをWT1存在下で共培養し、CTLの活性化を1度確認できたが、以後CTLの活性化の再現性が得られなかった。プロトコールの各工程の見直しや再検討を行った結果、再生CTLのlotやLCL前処置条件に原因はなく、実験成功時の旧式の血性に戻したところ、再度CTLの活性化を認めることができた、本実験系には血性のlotも重要と判断し、以後は河本研より血性も御供与いただき、当研究室でも再現性を持って、LCLによるWT1特異的再生CTLを活性化できるようになっている。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度にLCLによるWT1特異的再生CTLの活性化を、再現性を持って行えるようになったので、2021年度は、HLA-A*24:02陽性PM患者由来MyoD-hiPS細胞から分化させた筋細胞に対し、WT1特異的再生CTLによる筋細胞傷害が生じるか検証する。具体的にはhiPS細胞からの筋細胞分化誘導条件下での再生CTLの筋細胞傷害至適条件の検討(Effector細胞/Target細胞比、細胞培養培地組成、細胞傷害評価系の検討(現時点ではCalcien AMの使用を検討中)や筋細胞への至適条件の検討、など)を行う。また、同一PM患者由来hiPS細胞から、Sac誘導、造血前駆細胞の誘導を介してMψの分化も開始する。そして、確立した筋細胞傷害系において、各Mψサブセット(M1、M2)をそれぞれ混合培養し、再生CTLの筋細胞傷害に与える差異を評価する。 次に、自然免疫活性化因子として筋細胞由来のDAMPsが筋細胞-CTL- Mψ混合培養系に与える影響を検証する。別に準備したhiPS細胞由来筋細胞を過酸化水素水や低酸素環境下で培養して傷害を与え、筋細胞培養上清や筋細胞溶解液(以後、DAMPs含有液)を回収する。そして、筋細胞-CTL- Mψ混合培養系へのDAMPs含有液の有無による筋細胞傷害への影響や、DAMPsのMψや筋細胞への作用による自然免疫活性化への寄与(Mψ、筋細胞の細胞表面マーカーやサイトカイン発現プロファイル解析等)の評価を行う。DAMPs含有液が自然免疫活性化・筋細胞傷害に寄与する場合は、原因DAMPsの同定を進める。そして、原因DAMPs同定後は、その阻害剤が混合培養系において、筋細胞傷害へのDAMPsの影響を打ち消すことが可能かを評価し、治療薬への応用の可能性を検証する。 以上、上記で得られた結果は、適宜、学会・論文等で発表を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度までに、hiPS細胞由来筋細胞に対する抗原特異的なCD8T細胞による細胞傷害系の確立を目指していたが、抗原提示細胞LCL によるWT1特異的再生CTLの活性化の再現が得られず、本年度も引き続き再生CTL活性化プロトコールの各工程の見直しや再検討を行った結果、原因がCTL培養時の血清のlotにあることを突き止めた。適切な血性の使用で、以後は再生CTLの活性化を反復できている。本研究の核となる再生CTLの活性化に時間を要したこと、またコロナ禍の影響で医師として研究に割ける時間が限定されたため、hiPS細胞由来筋細胞とWT1特異的再生CTLの共培養まで実験を進められなかった。そのため、共培養での抗原特異的CTLによる筋細胞傷害の至適条件の検討(Effector細胞/Target細胞比、細胞培養培地組成、細胞傷害評価系の検討等)時に、hiPS細胞やCTLの培養培地、細胞傷害評価系試薬等への使用を予定していた助成金が2020年度も未使用となり、次年度への使用を考えている。また、同一PM患者由来hiPS細胞からのMψの分化時に使用する至適細胞培養培地と基質、筋細胞由来のDAMPsが筋細胞-CTL- Mψ混合培養系に与える影響の検証、DAMPsがMψや筋細胞の細胞表面マーカーやサイトカイン発現プロファイルに与える影響の解析・評価のための各種試薬等にも助成金の使用を予定している。
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