本研究の目的は『肥満脂肪組織マクロファージが全身のマスト細胞に与える影響に着目し、肥満とI型アレルギーの関係性を明らかにする』ことである。 前年度において、高脂肪食誘導性肥満マウスに対しI型アレルギー反応を個体レベルで評価することができる受動全身アナフィラキシー反応(passive cutaneous anaphylaxis、以下PSA)を行い、肥満により抗原刺激時における血漿ヒスタミン濃度の有意な上昇が見られることを明らかにしている。 2019年度は、in vitroの実験系を用いて肥満がI型アレルギーを悪化させるメカニズムに関する検討を行った。単球/マクロファージと脂肪細胞の共培養系を構築し、単球/マクロファージを脂肪細胞と共培養した際に誘導される遺伝子の発現をマイクロアレイにより解析した。共培養24時間後と48時間後の両方において有意に発現が増加した遺伝子が160個観察された。その中でSPP1遺伝子によりコードされるオステオポンチン(分泌型リンタンパク質)に着目した。オステオポンチンは炎症部位においてマクロファージなどから産生されIL-12の産生を促進することが知られている。実際、肥満患者における血中IL-12濃度の増加が報告されている。そこで骨髄由来培養マスト細胞をIL-12存在下で抗原刺激したところ、対照群と比較し脱顆粒反応の有意な亢進が観察された。したがって、肥満時の脂肪組織に局在するマクロファージが産生するオステオポンチンやIL-12がマスト細胞の脱顆粒反応を促進することで、アレルギー反応が増強する可能性が示唆された。
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