2010年~2020年の大学病院において同定されたカルバペネマーゼ遺伝子は、NDM-4の輸入症例を除いてIMP-1であり、主にE. cloacae ST252およびST730によって維持されていた。また、地域におけるCREのゲノム疫学的な特徴、特に海外型のカルバペネマーゼ産生腸内細菌目細菌(CPE)の伝播機序は明らかになっていない。海外渡航歴のない小児患者から、海外型のNDM産生大腸菌が検出されたため、臨床分離株の解析を行った。PCR法で各種カルバペネマーゼ遺伝子の有無を確認したところ、NDM遺伝子が検出された。次世代シーケンサーMiSeqシステム(イルミナ)を用いてNDM型CPE株の全ゲノム解析を行った。耐性遺伝子の網羅的な検索により、NDMはNDM-5型に分類され、ESBL遺伝子(CTX-M-55、CTX-M-199)も保有していることが明らかになった。また、MLSTを行い、E. coli ST410に分類された。NDM-5産生大腸菌ST410は高齢者で国内感染例が報告されているが、海外渡航歴のない小児市中患者から国内で初めて検出され、地域において潜在的な拡散の可能性が示唆された。市中における海外型のCPEの蔓延を阻止するために、継続的に監視する必要がある。シンクや排水管に関連したCPEのアウトブレイクも報告されており、水回りの環境制御が重要である。血液透析患者における水系感染症について文献調査を実施したところ、主に感染予防策と透析で使用する水の管理の不備が関与していた。ICUにおける血液透析患者の透析用ドレーンおよびシンクからKPC産生腸内細菌目細菌が検出され、ドレーンの不適切な使用との関連が報告されていた。血液透析患者のケアにおいて、特に手指衛生、無菌操作、清掃・消毒、水の管理などの感染予防策を徹底することが重要である。
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