研究課題/領域番号 |
18K16171
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
池田 麻穂子 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (40723200)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 胆道感染症 / 大腸菌菌血症 / 胆汁抵抗性 / 鉄代謝 / 接着侵入因子 |
研究実績の概要 |
本研究は、胆道感染症由来の大腸菌菌血症を起こした臨床例を対象に、患者背景や大腸菌 株の病原性を解析し、抗菌作用のある胆汁ストレス下でも感染を効率的に成立・進展させる病原性の高い大腸菌群があるかを検討し、その細菌学的特徴を明らかにすることを目的とする。 二年目に当たる本年度は、菌血症を伴う胆道感染症由来大腸菌と尿路病原性大腸菌の病原性を引き続き比較した。胆道感染症由来大腸菌では、尿路病原性大腸菌と比較し、より多様な系統発生群を示すこと、病原遺伝子保有率に差があるという結果を得た。 また、胆道感染症の重症度と患者因子および胆道感染症由来大腸菌の病原因子の相関を解析した。重症度と患者因子は相関しなかったが、胆道感染症由来大腸菌の病原因子のうち、重症度と相関する因子1つ、逆相関する因子1つを同定した。 この研究結果は、アメリカ微生物学会総会(ASM Microbe2020)で演題採択がされており、発表予定であったが、新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、総会は中止となった。胆道感染症由来大腸菌は、尿路病原性大腸菌と異なる機序により胆道系で病原性を発揮している可能性があり、最終年度では、胆汁ストレス下での表現型解析により、詳細を検討する予定である。また、胆道感染症は一患者内で繰り返すことが多く、繰り返す大腸菌菌血症の菌株解析も並行して行っていく予定である。この中で胆汁ストレスにより適応して菌血症の病態を示す大腸菌菌株の特徴を見出していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究者は感染対策業務および感染症診療に従事し、新型コロナウイルス感染症対応を行ったため、研究時間が減少し、やや計画から遅れたと考えている。 今年度は初年度の計画と比較し、解析症例数を引き上げた。また、胆道感染症に伴う大腸菌菌血症の重症度に関与する病原因子を2つ同定した。菌血症を伴う胆道感染症由来大腸菌と尿路病原性大腸菌の病原性を比較し、どちらも系統発生群はB2が最も多いものの、胆道由来菌株では、他の群へも分布し有意に多様であることがわかった。また、病原遺伝子の保有状況は、尿路病原性大腸菌が毒素や接着因子の保有率が高い一方、胆道由来株では保有率が低かった。 また、上記に平行した研究として、胆道感染症および、それに伴う大腸菌菌血症は繰り返すことが多く、2013年度から2019年度までに大腸菌菌血症を複数回繰り返した症例を解析することとした。原因感染症としては、尿路感染症および胆道感染症が多く、最大5回繰り返していた。Enterobacterial Repetitive Intergenic Consensus Polymerase Chain Reaction (ERIC-PCR) という手法を用いて、同一症例の菌血症が同一菌株であるか、違う菌株が繰り返しているのかを解析した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の計画では、胆道感染症を模した、胆汁ストレス下での大腸菌の表現型解析を進めていく。特に胆汁ストレス下での胆道上皮接着性、バイオフィルム形成能、鉄代謝能について、上記で同定した病原因子の有無で違いが生じるか検討する。特に、胆道感染症の重症度に関わる病原遺伝子については、ノックアウトや阻害物質を添加した条件で実験を行いたい。また、実際に胆道上皮や人工物を用いて上皮への侵入や人工物上のバイオフィルム形成能を評価する予定である。 同時並行している繰り返す大腸菌菌血症の研究では、患者背景と菌の病原因子パターンに特徴が見られないか、解析を続けていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の計画はやや遅れている。菌株の病原性解析の他に、カルテ情報から臨床背景を抽出する作業が多く生じたため、本年度の基礎的実験に使用する金額が予定より低くなり次年度使用額が生じたと思われる。
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