研究実績の概要 |
本研究は、胆道感染症由来の大腸菌菌血症を起こした臨床例を対象に、患者背景や大腸菌株の病原性を解析し、抗菌作用のある胆汁ストレス下でも感染を効率的に成立・進展させる病原性の高い大腸菌群について細菌学的特徴を明らかにすることを目的としていた。 本年度は、菌血症を伴う胆道感染症由来大腸菌の保有する病原遺伝子iutAとibeAが、菌血症の重症度に影響を及ぼすことをアメリカ微生物学会総会(ASM Microbe2020)で発表した。(オンライン、ポスター発表) さらに、胆道感染症由来の大腸菌株72株について、Multi locus sequencing typing (MLST)を行った。既知のSequence type(ST) 30種類68株、かつ分類不能4株に分けられた。そのうち、最もよく検出されたSTは、ST131(23.6%)で、次にST95、ST73が続いた。22種類のSTは各々1株ずつであり、多様なSTが検出された。重症度とMLSTとの比較では、相関関係は見られなかった。 次に、MLSTと前述の重症度に関わる病原遺伝子iutA, ibeA遺伝子の分布を解析した。iutAとibeA遺伝子を両方保有する株は1株のみで、iutAのみ46株、ibeAのみ13株、両方非保有12株であった。最も検出されたST131株はすべてiutAのみを保有していた。 菌血症に至る胆道病原性大腸菌は、鉄代謝に関わるiutA遺伝子、および酸化ストレスやヒト細胞への侵入に必要なibeA遺伝子を利用しながら、胆汁ストレスを回避し、血中へ流入し、菌血症を引き起こすものと考えられた。 これらの研究結果は、Gut pathogenに投稿中(minor revision)である。
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