本年度はハムスターを用いた動物感染実験系に替わる手法として、ハムスター脂肪組織オルガノイド感染実験系の確立を行った。動物感染実験系では病原性の評価に用いる匹数が多く、飼育場所や実験場所の確保が問題となるが、ハムスターの脂肪組織から確立されたオルガノイド(擬似臓器・組織)に対して感染実験を行うことで、実験に用いるハムスターの匹数が削減できる上、飼育場所や実験場所の制限が少なくなる利点がある。またその後の遺伝子発現解析・病理組織学的解析にも容易に用いることができる。 本実験ではハムスター(Syrian、メス、8週齢)の右鼠径部から脂肪組織を摘出した。摘出した脂肪組織を1mm四方の立方体に切り分け、Matrigel(米国Corning社)含血管内皮細胞培養用培地に播種し、37℃・5%CO2条件下で2週間培養した。培養後7日程度で播種した脂肪組織からの血管内皮細胞新生が見られた。この新生血管内皮は血管内皮細胞マーカーであるCD31陽性であることを免疫組織化学法で確認した。 確立されたハムスター脂肪組織オルガノイドへの感染実験も行なった。用いた菌株はLeptospira interrogans serovar Manilae strain L495、L. biflexa serobar Patocの2種で、感染菌量は10^5であった。いずれの種でも感染後24時間程度でMatrigelの破壊が確認され、通常接着している脂肪組織オルガノイドの浮遊が見られた。これはレプトスピラが持つコラゲナーゼ等の消化酵素によってMatrigelが分解されてしまったためと考えられる。この機構は脂肪組織定着時の組織侵襲に大きく関わっていると示唆される。
|