研究課題/領域番号 |
18K16176
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
田代 将人 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 助教 (20713457)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 慢性アスペルギルス症 / 動物モデル |
研究実績の概要 |
現代の代表的な難治性感染症の1つである慢性アスペルギルス症は、病態を再現している適切なモデルの欠如が基礎研究の進展を阻む最大の要因となっているため、本研究では慢性アスペルギルス症動物モデルとして皮下空洞アスペルギルス菌球留置マウスモデルの確立を試み、生体と菌球の長期相互作用を再現することで慢性アスペルギルス症の病態解明を目指している。 初年度は、マウスの皮下空洞の作成手技の確立および、皮下空洞内の菌球の維持について検討を行った。マウスの皮下空洞は人為的に皮下に空気を注入して作成した。しかし、時間経過と共に空洞内の空気は吸収されていき、空洞の維持が困難となったため、3Dプリンターで作成した人工構造物を留置することで空洞を維持することを試みたが、人工構造物そのものによる侵襲が大きく、皮膚の切開創の治癒にも支障をきたしたため、断続的に空気を注入することで空洞を維持する方法へ切り替えた。 液体培地内で作成したAspergillus fumigatusの菌塊を皮下空洞に直接留置したところ、健常マウスであっても予想に反して著明な組織侵襲を示すことが明らかとなった。よって、空洞内で菌球が組織に侵襲することなく長期間維持されながら増殖していくためには、「空洞」以外の要素について探索しなければならないことが判明した。 まずは宿主側の因子として、慢性の病態ではアスペルギルスに対するIgGが陽性となっており、このような液性免疫が侵襲の抑制に重要な役割を持つと仮説を立てた。そこで、菌球をホモジナイズした菌液を定期的にマウスに腹腔内投与することでマウスを感作し、沈降抗体が陽性となることを確認して菌球を留置した。組織侵襲の程度は軽減したものの、それでも組織侵襲は残存した。そこで、今度は菌体側の因子を検討しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウス皮下に空洞を維持する方法を確立した。さらに、生体の空洞内においてアスペルギルス菌球が維持される因子について、徐々に明らかとすることができている。マウスを事前に感作させ、菌球留置前に沈降抗体陽性とする方法についても確立することができた。
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今後の研究の推進方策 |
臨床的には空洞内の菌球のほとんどは死菌となっていることが予想されるため、空洞内で維持される菌球の要素として、死菌を核として生菌を周囲にまとわせた形で空洞内に留置する方法を試みていく。3ヶ月以上の空洞内菌球維持と、病理学的なアスペルギローマの形成が確認された後は、以下の実験を計画している。 ①アスペルギルス二次代謝産物がアスペルギローマの組織侵襲に与える影響の解析 in vitroで作成した菌球をマウスの皮下空洞に直接留置すると、1週間後には組織侵襲を起こすことを我々は見出した。しかし、その組織侵襲が起こる機序は不明である。アスペルギルスの産生する毒素であるグリオトキシンのノックアウト株であるgliA欠損Aspergillus fumigatusと、様々な二次代謝産物が産生できなくなったノックアウト株laeA欠損A. fumigatusを用い、菌球の組織侵襲性を親株のA. fumigatusと比較を行うことで、グリオトキシンや他の二次代謝産物が組織侵襲に与える影響を解析する。 ②アスペルギローマモデルマウスにおける菌球成長の評価 人工的に作成したアスペルギローマも空洞内で成長していることを確認する必要がある。ただし本モデルにおいてアスペルギローマが肉眼的に増大していない場合であっても、生体の免疫反応と菌の増殖が釣り合っている可能性もあり、菌球における残存した生菌の成長がないことの証明にはならない。そこで、本モデルでは菌球を留置する皮下空洞の維持に窒素ガスを用いることで実際の臨床像と同様の低酸素環境を維持していることを利用し、低酸素環境に感受性を示す遺伝子破壊株(Aspergillus fumigatus ΔatrR, ΔsrbA)と親株のアスペルギローマ形成過程を比較し、その大きさや菌量の差を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
徹底したコスト削減と綿密な実験計画により支出を低減させることに成功した。現在、実験を順調に遂行しており、次年度はさらに計画以上に発展させることも視野に入れている。発生した次年度使用額は、元々計画していた翌年度分として請求した助成金用途に加え、今後の研究の推進方策に記載した実験計画も遂行していくために使用する予定である。
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