本研究の目的は、薬剤耐性菌の増加が深刻な問題となっている緑膿菌による難治性気道感染症に対し、効果的かつ耐性菌を抑制できる抗菌薬適正使用法の開発を進めることである。前年度で、熊本大学病院集中治療室で人工呼吸器管理を受け、緑膿菌が気道から検出された症例の臨床データの収集はほぼ終了した。2004年1月から 2019年12月までで計461人が解析の対象となり、人工呼吸器関連下気道感染症(Ventilatorassociated lower respiratory tract infection:VA-LRTI)の中でも、気道への定着状態(コロナイゼーション)と人工呼吸器関連肺炎(Ventilatorassociated pneumonia:VAP)の中間に位置する人工呼吸器関連気管気管支炎(Ventilator-associated tracheobronchitis:VAT)において、特に高濃度の緑膿菌(≧10^7 cfu/mL)が検出された時に抗菌薬の有効性が高いことが示された。また、胸部レントゲンの画像スコアについても、VATで菌量と画像スコアの重症度の相関関係が見られた。低~中濃度の緑膿菌性VATや肺野陰影の軽微なVATでは抗菌薬の有効性に乏しく、高濃度の緑膿菌VAT発症のリスク因子(高血糖、長期人工呼吸器装着、セファロスポリン系抗菌薬の使用)を積極的に管理することで抗菌薬の使用量を減らすことが期待された。緑膿菌の菌量と密接な関連があるクオラムセンシング機構と気道感染症との関連性についても評価を行う予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響ため予定通り実験が行えず、N-アシル-L-ホモセリンラクトンの定量系の構築は期限内に終了し得なかった。クオラムセンシングによる緑膿菌の病原性と気道感染における臨床像との関連性については、今後も研究を続けていく予定である。
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